極夜
草野大悟2

頭のなかで
ひっそり ねむっていた蝉が
摘出された冬
生まれかわったあなたがいた
ころがっているだけの生をえて

ゴロゴロ ゴロゴロ ゴロゴロゴロゴロ
交換される下半身
望みもしない臍から注入される栄養剤と薬
日になんども鼻腔をつらぬくカテーテル
吸引される命の残渣

せめてあなたの前でだけは
ただ笑うだけの鬼になろう
そう決めた

どこにも行きようのないふたりが
しらじらと物語をつむぐ暮らしに
少しばかり倦んできたのは
時の必然かもしれない

煮詰まった空

真夏の占いで
ぼくらの名前は
絶句するほど神に見放されていることを
知った

そうか
ぼくらは
そんな螺旋の縛りのなかを吹いてきたのか

呟いたとき
鉛色の空に
ぽっかり
檸檬が浮かんだ
楕円形の笑いを浮かべたそれは
ひとしずくの涙さえ拒否するような
氷の衣をまとっていた

ぼくらは
どこに転がり
どこを吹けばいいのだろう
羽化してきたばかりの抜け殻に
戻ればいいのだろうか
ぼくは
ただひたすらに
風を釣ればいいのだろうか

蝉が寝ぼけ鳴く深夜
戸惑いが 迷子になった
蝉は行方を知っている
知っていて知らないでいる

雨が横殴りに降ってきて
夜をかき回すけれど
あのころ この部屋で泳いでいたイルカは
いったい どこへ行ってしまったのだろう

碧落に太陽は潜み
降り積もる夏が
ぼくらの眠るべき場所を
覆いつくす

エーテルが
青や緑にゆらめく極夜
白い蝶が
太陽をさがして
今も飛びつづける


自由詩 極夜 Copyright 草野大悟2 2014-08-28 20:46:06
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