僕たちは確かに幸せになるためにここに来た。
時子
僕たちは暗い湖の中で生まれた。
そこはいつでもあたたかい水がこんこんと湧き出ていて、
お腹も減らないし苦しいことなんかなんにもない。
天井からは極上の歌声が響き、
その時、僕たちは愛というものを知った。
ちょっと手足を動かせばすぐ向こうに手が届くような小さい湖だったけれど、
僕たちにとってはそこは楽園だった。
ある時、僕たちは湖から旅立つことになった。
旅立ちの日、僕たちはそれまでの記憶を湖の底に置いてきた。
もっと広い所をのびのびと泳いでみたい。
愛し、愛され、僕たちの全てが満たされた時、
またここに戻ってくることを誓った。
満月の晩。
湖から顔を出し、初めて外の空気に触れると、
からだの中がぐわぐわと苦しくなって、
おぎゃあおぎゃあと変な声で泣いた。
僕たちはそれぞれ名前を与えられ、
今はもう昔のことなんて忘れてしまった。
でも、覚えていることもある。
凍えそうな夜も沢山あるけれど、
あの日、僕たちは確かに幸せになるためにここに来た。
Happy Birthday!
いつかまたあの場所に戻ろう。