倨傲の囁き
陽向



やがて誰かのその声は聞こえなくなる
自己欺瞞に耽る大人達の目に怯え
されどそのように世界が見えている
自分自身が自己欺瞞に耽っていることを彼は知らない

世界は貧しいと考え 闇雲に救いを求め
自分自身は価値の無い人間だと感じつつも
「本当に価値のある人間は闇を抱えているものだ」
との倨傲の囁きが彼を増々傲り高ぶらせるのだ


やがてその女の声が聞こえてくる
彼はその女の目に心底怯えながら近づき
女から零れ落ちていく言葉の一つ一つに耳を傾ける
彼のプライドは徐々に裂かれていく
男の特権が一つでもあるとすれば
男が言葉を発し それを女が救うのが男の特権だ
彼は今彼女の言葉を必死で掬っている


彼は悟る いつまでも倨傲の囁きに振り回されるのは御免だ
やがて誰かのその声は 彼の内側から発せられる
倨傲の囁きではなく 彼自身の囁きとなって




自由詩 倨傲の囁き Copyright 陽向 2014-08-24 11:51:18
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