かげふみ
菫
古い家が連なる道を駆け抜ける
手に虫取り網 腰には虫かご
ひまわりのワンピースを着て
麦わら帽をかぶり
柔らかなサンダルで
兄の後ろぴったりに 駆け抜ける
スサノヲを祀ることなど
知ることもないままに
境内の木々を見上げ
アブラゼミめがけて 網を振る
近くに流れる小川の草むら
こそばさに耐えながら
落ちないようにそおっと
跳ね虫めがけて 網を振る
かごの蝉 放して帰ろう また明日
広がる田畑は今や
ひどく照り返すアスファルト
四車線という小川で
暑さに虚ろな信号待ち
幼い兄妹
わたしのとなり
影ふみ 影ふみ
いつかの鳥居
あの向こうへ
駆けていく
切なくも微笑み 愛おしいままに
心で大きく手を振り 夏を見送る
「また 明日ね」