喋るテレビ
為平 澪

あなたは 年老いた家の姿を見たことがあるか

台所からは 骨と皮だけになった皮膚の隙間から
食器と血が 毎日滑り落ちて死ぬ音

骸骨のような運転手になった父が
赤信号のまま 車を通過させて逝く

一方通行の標識を並べ立てる母の会話は
エンジンがきれたように沈黙すると
静かに泣く

毎日 大音量で喋るテレビ
その画面で 人々は快活な生き死にを
演じている

大音量の存在感に 圧倒されながら
私たち家族は無言で 明日死ぬ
自分たちの報道を 死んだ目をして
待っていた

【介護に疲れた子供、年老いた両親を殺害】

その見出しは 明日の私の背中
近日中に報道される 七十五日の話題

誰も居なくなった家で
目覚まし時計は 毎日 二回鳴り響き
テレビだけが 喋り続ける


自由詩 喋るテレビ Copyright 為平 澪 2014-08-19 14:52:27
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