『鋏』
あおい満月

『鋏』


月が、
夜に噛まれる。
欠けていく姿は
溶けて海となった
残り少ない流氷
その上に、
この足は立つ
諸手は木の柱に括られて
身動きができない。
足掻いた手首が擦りむけて
血が滲む
空はみるみるうちに
暮れていき
月があらわれる
少し離れた
ひだりがわの大地には、
満ち欠けした月が
星の雨を呼んでいる



時計の針は、
刻々と一日を飲み込んでいく

(早く帰らないと)

この頭の一日が
終わってしまう
窓を見ると
目を霞めた月が
あくびをしながら
この手元をみている
終わらない
入力作業
固くなった十指が
啜り泣く

**

目を霞めた月が
目を閉じた瞬間、
雨が降りだした。
傘のないこの肩を
雨は喉をならして吸っていく
ずぶ濡れになりながら
家にたどりつくと
ドアを開けるための鍵がない。
バッグを逆さにして
根こそぎ探す。
からん、と音がして
血に濡れた鋏が落ちてくる
無意識のうちに
この手は鏡のかけらと
絡み合っていた。
鋏の刃に映る唇は
乾ききってひび割れている
海に引き裂かれた
流氷になって



自由詩 『鋏』 Copyright あおい満月 2014-08-18 19:10:49
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