『鋏』
あおい満月
『鋏』
月が、
夜に噛まれる。
欠けていく姿は
溶けて海となった
残り少ない流氷
その上に、
この足は立つ
諸手は木の柱に括られて
身動きができない。
足掻いた手首が擦りむけて
血が滲む
空はみるみるうちに
暮れていき
月があらわれる
少し離れた
ひだりがわの大地には、
満ち欠けした月が
星の雨を呼んでいる
*
時計の針は、
刻々と一日を飲み込んでいく
(早く帰らないと)
この頭の一日が
終わってしまう
窓を見ると
目を霞めた月が
あくびをしながら
この手元をみている
終わらない
入力作業
固くなった十指が
啜り泣く
**
目を霞めた月が
目を閉じた瞬間、
雨が降りだした。
傘のないこの肩を
雨は喉をならして吸っていく
ずぶ濡れになりながら
家にたどりつくと
ドアを開けるための鍵がない。
バッグを逆さにして
根こそぎ探す。
からん、と音がして
血に濡れた鋏が落ちてくる
無意識のうちに
この手は鏡のかけらと
絡み合っていた。
鋏の刃に映る唇は
乾ききってひび割れている
海に引き裂かれた
流氷になって