ただ老いて死ぬ事
yamadahifumi
私の人生が終わっていく時
私は私が得る事のできなかった様々の事を思い出すだろう
それはあるいは夏の微風や、春の穏やかな午後
精悍な顔した少女の後ろ髪や冬の枯葉の匂いや
病床にいる私自身に注がれる生命の滴
今、私は静かに老いて死んでいこうとする
老いて死ぬという事がこの二十一世紀にあっても
何千年と変わらないようなシンプルな事実だという事は一体、どういう事か
ありとあらゆるテクノロジー・技術・戦争・経済・政治・様々なイデオロギーなど
これまで人間が積み上げてきた全てのもの、そして私の生涯をかけた努力それら全てを足しても
それは私が今死ぬという事実を覆してあまりあるものではない
だから、今、私は普通に死んでいく
古代人がただ野垂れ死ぬのと全く同じ死に方で
そして、この近未来的社会は私の死を様々なイメージと概念で覆い隠してしまうだろうが
しかし、今、私はみすぼらしく、切なく、一人孤独に死んでいくのだ
だから、私は今、現代人が馬鹿にする、昔ながらの宗教を信じながら死んでいこう
そう、私が死んだら、私の魂は天上へと昇る
私が生前に成したその努力に比例して
私はそう信じながら、一人ただ愚かに死んでいく
誰にも看取られる事なく、一人で
そして、それこそが
私の終生の願いであった