紅蓮の旗
草野大悟2

 ワシは、国家を動かしている輩どもの腐った根性が気にくわんのじゃ。
 あたしだってそう、ほんと馬鹿にしてるわ、あたしたち一般市民を。
 ぼく、そんなこと思わない、高級官僚だって、代議士先生だって、学校の先生だってみんな一所懸命ぼくら一般ピープルのために頑張ってくれてるし……。
 お、おまえホントにそんなこと考えてるのか? まったく見下げ果てた奴じゃわい。
 そうよ、権左右衛門って最低だわ、あたし軽蔑しちゃう。
 二人ともそんなにぼくのこと責めなくてもいいじゃんよ。ぼくは……ぼくは、この国を世界中のあらゆる国と比較して、相対的にこの国の為政者達を評価している。例えば北朝鮮なんてどうよ? 中国はどう? 為政者に楯突いただけで銃殺されるし、共産党の運営方針に反対するメディアはとことん潰され、ネットも国によって封鎖される。第一あの天安門で何千人という学生達を殺しておきながら当然と考える、それにアメリカなんかも金持ちじゃないと病院にもかかれない、二人ともそんな国がいいわけ?
 ワシはなぁ、ワシたちが幼少のころの世の中が一番良かったと思っとるんじゃ。
 あたしだってそう、あたしたち保育園のころから一緒じゃん、仲良し三人組って先生達もいってたの覚えてる? あたしはよーく覚えてるよ、その頃三人で約束したこともね。
 サラはさぁ、いっつもみんなの憧れでさぁ、ぼくたちサラといるだけで誇らしかった。
 そうじゃのう、誇らしかったし、今も一緒で誇らしいわい、こうやってサラのショートカットを見ておるとムラムラしてくるわい、ふぉっふぉっふぉっ。
 いやーねキュウヘイは、保育園のころからやらしかったけど、変わってないわね、っていうか成長してない、ぜーんぜん。
 そうかのう、成長してないかのう。
 ぼくもそういう感じがする。だいたいキュウヘイはいつだって女の子のお尻ばっかり追いかけていたしさぁ、ボインタッチなんていってオッパイ触ってたもん。ぼく、ぼく、羨ましかった。
 権左右衛門そうか、羨ましかったのか。それならそうとワシに一言いってくれればなんとかなったものを、惜しいことを。しかし、権左右衛門、お主もスケベよのう、ふぉっふぉっふぉっ。
 キュウヘイやめてよ。ぼくは、君とは違うんだから。女子っていうのは神聖な神秘的な清らかな……えーっと、とにかくそんな存在なんだから。
 へーえ、そうなんだ、あたしそんな崇高な生き物なんだ。
 サラやめてよ、自分のこと生き物なんていうの。
 だーってそうじゃんよ。あたしたちみんな生き物よねぇ、キュウヘイ。キュウヘイ、こら! 起きろ! 人が話してるのに寝てんじゃねえよ。ケリ!
 いて! だ、誰じゃ今ワシをけったのは? おー痛い、脛が思いっきり痛いぞ、権左右衛門おまえやったな! 目をそらすところをみると、ワシを蹴ったのはおまえに決めた!
 決めたってそんなぁ、ぼくじゃないよ。ぼくがそんな暴力振るうわけないってキュウヘイも知ってんでしょ? ね、知ってるよね? うーむ、そういわれると知ってるような気がしてきたぞ。
 くっくっくっ。
 む? 誰じゃ笑っておるのは。
 あたしよ、あ・た・し。
 あたしってサラ、おまえまさか、おまえがワシの脛をけったのか? 
 さぁ、あたしかもしんないし、あたしでないかもしんない。キュウヘイの脛を右足の爪先で、回転をつけながら思いっきり蹴飛ばしたのは、おそらく誰かでしょう。
 へっ? 誰かでしょう、っていうわりには蹴ったときの詳細な状況描写に感服じゃ、っていってる場合ではないわい。
 ま、ま、キュウヘイそのくらいでいいじゃん。
 とはいってもな、ここは男としてキッチリと落としまえをつけとかないとな。
 あのね、キュウヘイ、あんた保育園のころから「餅をついたようなさっぱりした性格」とかいわれて喜んでいたけど、そのまんまだね。
 そうじゃ、男は、そうチャラチャラ自らの主義主張を変節させるものではなーい! な、権左右衛門。
 そ、そうかな、多分……。
 多分っておまえ、おまえってそういう奴、今の今までおまえを信じていたワシが馬鹿じゃったわい。
 
 ねぇサトシ。
 ん、なーにワカナ? 
 最近ね、最近、サラが悪い男達と付き合ってるってご近所の奥さん方がいうのよ。
 悪い男達って、誰よそれ? 
 うん、何でもね保育園でも一緒だった子達みたい。
 みたいって、名前も分からないのか。そんな曖昧なことでどうする! 悪い男達と付き合っているといわれて、おまえは、そのままその問題を放置していたのか! なんたる怠慢、なんたる職務放棄! そこへなおれ! 
 はいはい、なおりましたよ、んでどうすりゃいいんです? 職務怠慢の、職務放棄のわたくしとしては、えっ、どうすりゃいいんです? 回答を即示してよ!
そんなことも分からないのかおまえは、ぶわっかものめ!
 はい、はい、どうせわたくしはぶわっかものめ、でございます、あなたが教えてくれないことには、なーんにも分かりません、くっくっくっ。
 あのなぁ、暢気に笑ってる場合ではないぞ。 
 あーら、暢気だなんて、わたくし、このシュチュエーションで暢気などという単語を平気でお使いになるあなたの方がよっぽど暢気だと思います。
 なにィ、も、一回いってみろ! 
 ええ、ええ何回でもいいます、暢気はあなた、暢気はあなた、暢気はあなたですっ! 
 ぐっ、そこまで連呼するか。
 だーってあなたがいってみろと仰るから……わたくし、わたくし……。
 な、なにも泣かなくても、泣かなくてもいいだろう。
 わたくし悔しい。あなたにわたくしのことがほとんど理解されていないことがこの時点で具体的かつ現実的な意味合いでわたくしの目の前に呈示されてしまったことが、とてもとっても悔しい。悔しい、悔しい、ええいもう、悔しい! 
 わ、分かった、分かった。それにしてもおまえのリフレイン三回の効果は凄いよ。
 凄い? ほんと? わたくしって凄いの? ほんとに? 
 あぁ、ほんとだとも。おまえは凄い。
 サトシィー。
 ワカナ……。

 あーら、カナコとキクコ、ここにいたの? 
 って、さっきからいるじゃん! 
 じゃ、ずっと見てたの、わたくしたちの……なんていうか、これ? 
 ええ、え、見てました、見てましたよ、バッチリね。だいたいねぇ、リビングでみんなでお食事してるときにそんなことすれば必然的に見るわよ。
 そ、そうだな。必然はいつも偶然から生まれる、なんてな。
 うーん、深いわ、とっても深い。やっぱサトシ、ボキャブラリーが豊富だよね、誰かと違って。
 だ、誰かって、誰よ! 
 そう怒るところをみると、ワカナもう答えを出してるんじゃない? ぎくっ。ど、どうでもいいからさっさと部屋へ行って勉強しなさい! 
 今からしようと思ってたのに、二人が変なこと始めるからこうなったんだよ、親の心子知らずね、まったく。キクコ行こ。
 うん、行こ。

 キクコさぁ、どう思う、サトシとワカナのこと。
 どうって、わたし、よく分かんない。
 そうだよね、あたしもよく分かんないけど、けど、自分が通ってる高校にワカナやサトシがいるって、なーんか嫌だよね。
 うん、それはいえる。あのさぁ、キュウヘイがいってたんだけど、普通、夫婦は同じ学校では勤務しないんだって。
 へぇーそうなんだ。じゃ、何でワカナとサトシはわたし達が行ってる学校で一緒に先生してるの? 
 さあ、何でだろうね。でもキューヘイによると、ごくまれにそういうことがあるんだって。教育委員会の人事ミスとかいってた。それでね、普通、校長先生になるような先生は、そんなことには絶対ならないって。
 ふーん、じゃ、うちのワカナとサトシは校長先生にならない人たちなんだ、よかったぁ。
 キクコ、あんた、よかったぁ、ってどういうことよ? 
 ううん、何となくねワカナやサトシが校長先生になったらなんか遠いところへ行ってしまうような気がしただけ。
 ふーん、遠いところねぇ、遠いところってどこよ? 
 遠いところは、遠いところよ。
 そうなんだ、遠いところは遠いところなんだ。
 そう、遠いところだよ。キクコ、宿題やっちゃおっか、算数と理科はあたしがやるからキクコは国語と社会ね。
 うん、分かった。こんなとき双子でよかったって思うよね、同じ学年でしかも同じ学校で同じクラス、担任がワカナじゃなきゃもっといいけど。
 そうね、でも、わたし、ワカナのこと大好きだからいつも一緒にいるの楽しい。
 へぇー、そう。あたしはなーんか嫌だな。家での自分と学校での自分の微妙な違いみたいな部分は子には隠しておきたいもん。
 へぇー、そうなんだ。
 そう、でもさぁ、なーんか調子こいて夜間高校なんかに入らなきゃよかった、しかも自分たちが卒業したとこなんかに、あーあ。
 カナコ、ぶつぶついってないでやっちゃうよ。カナコは数学とか物理とか好きじゃん。わたし、どうも苦手なんだ理系っていうのそういうの、そういうのがいまいちピントこない。いつかサラにいったら、サラが、あたしも理系は苦手だな、よく似てんねあたし達とかいって妙に嬉しそうにしてたけど、正直いってサラに似てるっていわれてもちっとも嬉しくないし。
 嬉しくないんだ、あたしはサラ好きだけどなぁ。
 うーん、上手くいえないけどなんか表層的な部分は似てるかもしれないけど、深層部分はあなたとはまったく違いますよ的な、分かる? 
 んーん、よく分かんない。
 そーお。
 うん。
 ところでさぁキクコ、キュウヘイとサラっていい感じだと思わない。
 思う思う、それでいて二人のときは喧嘩ばっかりしてるもんね。
 そうそう、喧嘩ばっかり、あの権左右衛門が……、この名前何とかなんないかな、長ったらしくて古くさくていやんなっちゃう。権左右衛門がいなきゃあの二人とっくに喧嘩別れしてたんじゃない? そうね、わたしも同感。権左右衛門の存在って大きいよね。確かに。
 カナコ、カナコは好きな男子とかいるの? 
 いるよ。
 ね、ね、誰ーれ? 
 誰でしょう、当ててごらん。
 えーと、タロウ? 
 いやぁよあんなゴリラみたいな顔した奴。
 ふーん、わたしてっきりそう思ってたけどなぁ、だっていっつもタロウ、カナコのこと見てるし、近くをうろついてるし。
 迷惑なんだよね正直、あんなのがあたしの周りにチョロチョロしてるから他の男子が近付かないし。
 カナコ迷惑なんだ。
 そう、はっきりいって大いに迷惑。それにタロウあたしの靴箱の中にしょっちゅう手紙入れてんの。今時はやらないよ手紙なんて。いいたけりゃ直接いいなって思うし、それもできないならせめてメールにして欲しいよね。
 うん、そう思う。けどタロウってああ見えて内面はとってもナイーブな男子なんじゃないかなぁ? 
 あらあ、キクコひょっとしてタロウのこと好き? 
 えっ? と、とんでもない、好きだなんて! 
 あっ、赤くなった。
 赤くなんかなってなーいっ! 
 ほら、手鏡。
 いらない! カナコの意地悪。カナコなんか嫌い! だーい嫌い! 
 ごめん、ごめん、そんなに怒んないでよキクコ。それよっか、あたしが誰を好きか当てたらモスバのハッピーセットをおごるよ、キクコあれ大好きだもんね。
 えっ、ほんと? 
 ほんとに、ほんと?
 本当よ、約束する。
 じゃーあ、指切り。指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます指切った。ようし、えっとね、カナコが好きな男子はね、イケメンで、金持ちで、サッカーとかスポーツやってて、成績良くて、ちょっぴり大人っぽい優しい男子よ、どうこれで? 
 何よそれ、それって全然具体性に欠けるわ、それじゃハッピーセットおごれないよ。
 そう、ダメ? どうしても? 
 ダーメ。
 けち。
 けちじゃなーい。
 けち。
 違う!

 クション!
 どうしたのキュウヘイ? 風邪? だったらあたしたちにうつさないうちにとっととお家にお帰り! 
 そうだよキュウヘイ早く帰って寝た方がいいよ。
 なーに寝ぼけたこといってんだ二人とも、ワシは風邪なんかひかーん! 
 あら、そーお、そおよね、昔っからなんとかは風邪ひかないっていうもんね。
 そう、なんとかは風邪ひかんのじゃ! ん? なんとかって何じゃ? サラ。
 さーあ、ふふふんふん。
 あっ、なに横向いてハミングなんぞしおって、おい権左右衛門、お主当然知ってるじゃろう、いえ! 
 いえイ! 
 いえイって、権左右衛門お主ワシを愚弄しておるのか! 
 あ、いや、決してそんなことは……。
 じゃ、何じゃ、ん? 
 ぼくは愚弄なんかしてない、(小馬鹿にはしてるけど……)。
 おい、こら、権左右衛門、今ごにょごにょ括弧付きでなんていうた、大きな声でいってみい。
 まぁ、まぁ、いいじゃないキュウヘイ。それよっか今後のあたしたちの行動指針を真剣かつ真摯に討議して方向性を樹立する方が先でしょ、ねっ! 
 そうじゃ、そうじゃ、忘れておった、それが先じゃ。
 ほっ、よかった。
 おい、そこでよかったと思っておる権左右衛門。お主がいうたことワシが忘れたとゆめゆめ思うなよ、いいか。
 あ、はい。
 うむ、ならよろしい、許す。ふぉっふぉっふぉっ。
 (って、まったくややこしい奴と友達になってしまった。だいたいぼくは、サラとだけ友達になればよかったのに、のに、のーに!こんなへんてこりんな奴がグリコのオマケみたいについてきちゃうんだもんなぁ、あーあ)
 権左右衛門あんたなんか意見なーい?   
 は? 
 だからぁ、今後のあたしたちの行動方針よ! 聞いてたの、さっきあたしがいったこと? 
 も、もちろん聞いてたさ。
 そーお、じゃいってよ、方針。
 と、いわれましてもですなぁ、これがなかなかに難題で……。そもそもぼくたちが三人でここにいる必然性すなわちDNAの記憶と宇宙の成立から説き起こしてゆく必要があるし、そうなればそれ相応の準備的な行為も当然必要とされてくると思料されるし……。
 あのねー、あんたさぁ、いっつも前置き長いんだよね、んで、結局の所何をどうしようというわけ。
 だから、思料中デス。
 あっ、そ。あんた恐ろしいくらい自分律っていうの、自分のパターンを崩さないよね。 
 ぼ、ぼくは自分ではそんなことはまったく認識してない。
 もう、いい! あんたと話しているとイライラしてくる、キュウヘイはどうよ? 
 ワシか、ワシにはな壮大かつ宇宙的な考えがあるんじゃ。
 へーえ、それって興味あるーう、なーに?
 って聞かれてもおいそれとは教えられないな、ふぉっふぉっふぉっ。
 いいじゃん、教えなよ。
 サラ、教えてといわれてハイそうですかと答えてくれるほど世の中甘くはないぞ。
 あっ! キュウヘイ、あんた、まーたなーんも考えてないんでしょ。
 そ、そんなことはない! 
 あっ、今、口とんがった。あんたが嘘つくときいっつもそうだよねキュウヘイ。ね、権左右衛門、キュウヘイ嘘つくとき口とんがらかすよね。
 ぼ、ぼくはよく分からないかも……。
 分からないかも、なんて適当にごまかしてんじゃないの! 
 まぁまぁ二人ともワシのことで喧嘩をするんじゃない、いやーあまったく二人とも子供だなあ、いくつになっても。
 って、キュウヘイあんたのせいじゃん、それをなによ人ごとみたいに、まったくやってらんない! もういい、今日はこれまで、来週までに今後の活動方針ぜーったい考えてくるんだよ二人とも、いーい、分かった? 分かったの! 返事は! 
 うむ。
 ぼ、ぼく考えてくる。
 よーし、今日の所は解散!

 ただいまぁー。
 サラお帰り、今日遅かったのね。
 うん、ちょっと居残り。
 居残りってまた何かやらかしたの? 
 またって何よ! なーんにもやらかしてません、お友達と真剣に将来のことについて議論してたんです。
 将来ってサラ、いっちゃあなんだけど将来なんてないんじゃぁ?
 むかっ! それよっか、ご飯。
 はいはい。
 はいは一回でよろしい! 
 はいはい。
 あのね、ワカナあんたさぁその癖なんとかならない? 
 はぁ? どういう癖?
 だからそういう癖。
 そう、よくないぞなんか人を小馬鹿にしてるようで、な、サラ。
 おーサトシさんあんたはホントニよくできた父親だよ、ワカナには勿体ない。
 いやぁ、それほどでも。
 なに二人で盛り上がってんのよ、早く夕ご飯済ませてよね、わたくし忙しいんだから。
 はいはい。
 はいは一回! 
 はいはい。
 あたしのへそ曲がりはワカナの遺伝だな、やっぱ。ワカナさぁ、カナコとキクコは?
 二階で宿題やってますよ。
 へえー宿題とかあるんだぁ。
 そりゃあるわよ、学校だもん。
 それもそうね。ところでワカナ、今日のこれなーに、精進料理みたいで、いまいち食欲わかない。
 サラの体のこと思って作ってんのに……食欲湧かないなんて……湧かないなんて……うっうっうっ……。
 な、なにも泣くことはないだろワカナ、ねぇサトシさん。
 そうだよ、泣くなんて。
 いいわ、いいわ二人でそうやって私をいびってれば、どうせ私は……うっうっ。
 あのねぇワカナ、あたしはこう、なんか豚カツとかステーキとか肉系が好きなわけ。油でジュワーッと揚げた豚カツをハフハフいいながら食べるあの幸福感をあたしから奪う権利はワカナあなたにはないと思う、ね、サトシさん。
 そ、ま、そっかなぁミタイナ。
 分かった。お二人がそこまで仰るなら明日からそうします。そうしますから覚えておいて下さい。私がサラやサトシやキクコやカナコのためを思ってユネスコの無形文化遺産に登録された和食を徹底的に食卓に出していた必死の努力をこの家の誰も認めてくれなかった。いいです、分かりました、よーく分かりました。
 べ、べつにそのぅ認めていないわけじゃなくて……
 わけじゃなくてなんなのよ! サトシ! 
 大いに感謝しているし、本当に美味しいです。
 そーお、ほんと? ほんとに、ほんと? 
 ああほんとだともワカナ。
 サトシーイ。
 ワカナー。
 ひしっ。
 って、あんたら人の面前でよくそんなことできるな、しかもしっかりキスまでして、この、羨ましい。
 そんな羨ましかったらサラもやればいいのに。
 そうですよ、やればいいんですよ。
 といってもねぇあたしにはそんな相手はいないしねぇ。
 なーにいってんのサラ、いるじゃないの。
 えっ? だれ、だーれ。教えてワカナ。
 まーたまたまたサラったら、テ・レ・ヤ・サ・ン。
 なによワカナその卑猥な笑いは。
 ふっふっふっ、わたくしがなんにも知らないとでも思ってるのサラ。
 え? なんにも知らないって思ってるのって、ワカナあんたなに知ってんのさ。あたしも知らないんだけど、よかったら教えてくれる? 
 ふっ、キュウヘイよ、キュウヘイ。
 は? キュウヘイってあのキュウヘイ? 
 あのもこのも、この辺でキュウヘイといったらあのキュウヘイしかいないでしょう。
 えーっ、えーぇ、やめてよやめて。ワカナ、冗談はヨシコさん。
 は? なにそれ。どーお、ズバリでしょ? 私だってだてに和食プラス玄米オンリーの生活続けてきたわけじゃないわよ。
 えー、そうなんですか、そうなんだぁサラ、キュウヘイ君なんだぁ。
 いやだぁーサトシさんまでそんなこといって、まったくやってらんない。

 なーんかギャーギャーうるさいわね、毎度のことだけど。ね、キクコ、あんたちょっと下行って、うるさくって勉強できない、っていってきてよ。
 えー、わたしが行くわけー、やだー。
 やだーって、あんた妹でしょ、早く行ってよ。
 なによ、いつも私たち双子だから基本的にどっちが姉でどっちが妹という上下関係はないことにしようよ、なんていってるくせにぃー。
 はいはい、いいからいいから後でお話よーく聞いてあげるから。
 ほんと?
 ほんとよ、今までだってあたし嘘なんかついたことないじゃんよ。
 っていうか、その言葉自体が既に嘘っていうか……。
 なにうにゃうにゃいってんのサ、早くお行き、さもないとお尻蹴っとばすからね! 
 へいへい、行きゃあいいんでしょ行きゃあ、わたしのお尻は日本一の美尻っていわれてるんだから、傷でもついたら大変。

 あーやってるやってる、いつものトライアングルバトル真っ最中。
おっかえりぃサラ。
 あ、キクコただいま。
 今日は、なに揉めてんの? 
 ねえ、ねえ聞いてくれるキクコ。
 うんうん、いってごらんサラ。
 実はねかくかくしかじかってわけ。
 ふーんなーるほどねえ、って分かるわけないじゃん! 
 そーお、おっかしいなぁ、テレビとかじゃこれで周りみんながふむふむなんていって納得するんだけどなぁ。
 ここは、テレビじゃないのっ! いい年してテレビと現実をごっちゃまぜにするなんて、わたし恥ずかしい。
 あのなキクコ、和食と豚カツ・ステーキの闘いなんだ。
 なによそれ、サトシ、かえって分からなくなるじゃん。
 いいキクコ、あたしはね、たまには豚カツを食べたいなぁっていっただけなの、それをこのワカナが和食がどうのこうの、家族みんなの健康を考えてどうのこうのと能書きたれるから話がこじれてしまったってわけ。
 そーお、さすがサラ、要点をピチッと押さえたダイジェストありがと。
 どういたまして。
 それでね、わたしが貴重な勉強の時間を割いて降りてきたのはね、とにかく静かにして欲しいわけ三人に。わたしとカナコ今真剣に宿題やってるんだから。しかも誰かさんの宿題もやってあげてるわけだし、そこんとこよろしく。
 そ、そうだよワカナもサトシさんもよーくキクコのいうことをきくことだね。
 サラ、あんたの声がいっちばんでかかったけど。
 そーお、ま、気にしない気にしない。
 あーあ、あなたはいいわよねぇ、いっつも脳天気で。
 おや、キクコあたしをつかまえて脳天気とはなによ、脳天気とは! 
 だーっていっもそうでしょう、我が家のゴタゴタのほとんどがあなたのせいなのにあなたいつだって知らんぷりしてるじゃん、よく心が痛まないね、ったく。
 あら、あらあらあら、そーんなこというんだキクコ。ほう、もうあたしのことが可愛くないんだ。サラが世界で一番可愛いなんていってたくせにぃ。サトシさん、ワカナこんなこといわせといていいのあなたたち、それでも親なの! 
 ま、自業自得っていうか。
 ワカナ! 
 どっちかっていうと僕も同意見かな、ミタイナ。
 サ、サトシさん! サトシさんまでそんなこというのね。いいわ分かったわ、ふん理解のない家族に囲まれてあたし幸せ一杯だよ。 おーいカナコぉー、おーい。
 なーによキクコ? 
 知らんぷりしてないで降りてきてよ、今の聞こえてたでしょ。
 分かった分かった、今降りてくから。

 あのね、要するに和食と洋食の闘いなわけよカナコ分かる? 
 要するに、たまには豚カツとかステーキとか肉食わせてくれっていうサラのささやかな願いなわけでしょ? 
 そ、それをこのワカナが冷酷無情にも却下するのよ。
 サラ、あなたねぇ話を歪曲しないでくれるかなぁ。
 ワカナなによ、だってそのとおりだもん。
 まあまあ落ち着いて二人とも。
 キクコもそうだけどカナコあんたもほんとに大人だねぇ、あたし感心するよ。
 そりゃそうよサラ、わたしたちが何年人生してると思ってんのよ。
 へぇへぇ、悪うございましたお代官様。
 まーたそうやって茶化す、あなたの悪い癖よサラ。
 そーお、自分じゃ結構気に入ってるし、キュウヘイなんかも、アイロニーに富んで含蓄が深いのうっていっつもいうよ、カナコ。
 ああ、キュウヘイ君ねぇ、キュウヘイ君じゃあねぇ。
 なによその差別的発言、いくらカナコだって許さないわよ! 
 まあまあ二人ともそう熱くならずに……冷静に冷静に(どうでもいいことによくもこう熱くなれるもんだよ、まったく。女って生き物はほんと不可解)。
 サトシ、あんたひょとしてあたしたち馬鹿にしてない? ねぇ、そんな感じするよねカナコ。
 そう、あたしもなーんか見下され感がぐわーんと伝わってきた。
 そ、そんなことぜーんぜん思ってません! お二人の考えすぎですっ! 
 サトシ格好いい、いうときにはいえるんだ……。
 ワカナなにぽわーんとしてるんだ! 
 あっ、べ、別にぽわーんとなんかしてないし。
 そお? うっそぉー、顔にサトシラブって書いてあるよ。
 えっ、えっ、ほ、ほんと? カナコどこどこ、どこ書いてある?
 うーん、ま、そんなところが可愛いといえばいえなくもないんだろうなぁ、ねキクコ。
 うーん、ま、そっかな。

 キュウヘイ例の物持ってきた? 
 おお、ここにあるぞ。
 見せて、見せて。
 ぼ、ぼくも見たい。
 まあ、お二人さんそう急ぎなさんな。これからの行動指針を樹立した暁には、お披露目いたすほどに。
 んーん、もう! いっつもそうして焦らすんだからぁ。
 サラ、人生我慢じゃ。なぁ権左右衛門。
 うん人生我慢の連続だよ。特にぼくなんかキュウヘイと付き合いだしてから我慢のしっぱなし。
 そうそう君は我慢の天才じゃ、偉い! 
 まーたそういってからかうんだから、サラなんとかいってやってよ。
 それじゃ、先週提案した我々の今後の行動指針について会議を始めます。
 えっ、シカトかよ、サラ意外とサドっぽいかも。ぼくそういうのもいいな、なんて。
 こら、権左右衛門なにぼやっとしてんのよ、あんたの意見から先、いいなさいよ、聞いてあげるから。
 それじゃ、ぼくから発表します。ぼくたちの活動の基軸はあくまで庶民、しかも毎日毎日一所懸命に働き、家族を養い、世を憂えているいわゆる憂国の士を全世界的に集結させ、彼らあるいは彼女らが報われる世界を創出することに置くべきだと思う(うーん、我ながら決まった)。んで、その基本理念を実現させるメンバーであるが、現状のこの三人ではいかにも心もとない。それで、大所高所に立って物事を判断できる人物の存在が必要不可欠となる。その人物は誰か? あるいは誰たちか? ふっふっふ、答は諸君の目の前にぶら下がっている。
 心もとなくて悪かったわね、あたしたち心もとないんだキュウヘイ。
 うーむ、心外じゃ、それに権左右衛門、お主平素の言葉遣いとまったく異なった異次元の話しぶりじゃのう。 
 そ、そう? ぼ、ぼく自分では特に意識してないけど……
 それで誰なのよその大所高所の方は? 
 誰じゃ?
 サラ、キュウヘイ、諸君らはいつもそうして他人に頼る、悪い癖だ。自分の頭で、自分の心で、自然の声に耳を澄ませばその名前が聞こえてくる。ほーら聞こえてきただろう、いかに諸君らが鈍感だといっても。
 あのさぁー権左右衛門、あんたドサクサに紛れてあたしたちへの鬱憤晴らししてない? ねぇ、キュウヘイ、そういうニュアンスよね? 
 そう、そういうニュアなんとかじゃ。
 ふっ、それは諸君のキャパの極小さがそう思わせるだけだよ。ぼくは、当たり前のことを極く当たり前にいってるし、誰にも迷惑かけてないし、お漏らしもしなーい! 
 分かった分かった、あたしたちその高所大所どうしても思いつかない、だから教えてよ権左右衛門。
 とても熟考したようには思えないが、諸君に付き合ってると話が拡散ないし分裂して先に進まないから、ぼくからいおう。それは、それは、サラんとこのカナコとキクコだ。
 えーっ、うっそぉー。
 ごほっ、なんじゃとあの二人とな。
 そう、あの二人。
 してその理由はなんじゃ? 
 簡単な事実を諸君が見落とすから分からないんだ。いいか、彼女らは人格円満、容姿端麗 頭脳明晰にして即決即断、加えて運動神経抜群それにそれにここが一番大事なことだが、人生経験超豊富。どうだ、こう何拍子も揃った人材が諸君の周りにいるかい、ふふん。 ふふんって、権左右衛門、その二人うちの家族なんですけど。
 あれっ、そうだった? 
 そーんなことにも気付かずに能書きたれとったのかお主は! この不忠者め、手打ちに致すそこへなおれ! 
 へへーっ。
 こらこら、キュウヘイあんた少し黙ってなよ、あんたが出ると話がややこしくなって仕方ない。
 うむ、そうするかのう。
 よしよし良い子良い子。
 サラそうか、ワシ良い子か? 
 うん、とっても良い子、時と場合によって。
 権左右衛門からメンバーにキクコとカナコを加えたらどうか、という意見が出ました。皆さんどうでしょうか? どうでしょうか?キュウヘイ。・・・・・・。キュウヘイ! なに黙り込んでんのよ! 
 先程、サラが、黙ってなよ、というたではないか。
 そ、そりゃいったけど、ここは発言していいの! ったく融通がきかないんだから。
 そうか、それではワシの見解を述べよう。
 もったいぶってないで早くいいなさいよ。
 そう急ぐでない、昔から慌てるホームレスは貰いが少ないというではないか。
 あたし、ホームレスさんじゃないし。
 そ、そうだよぼくもそんなんじゃないよ。
 うむ、そんな自己中心的判断は往々にして人生を誤らせるのをお主ら知らんのか、不憫よのう。いいかよーく聞け、ワシはな、ワシは賛成じゃ、以上。
 以上って、さんざん前置きしてたったそれだけ? 
 そうじゃ、男は多くを語らない。
 とかなんとかいって、キュウヘイ、あんたもしかして夕食のことで頭が飽和状態になってるんじゃない? 
 ぎくっ。サラ、ワシをそんな安っぽい男と思うてか? 
 うん! 思う。
 ……。
 じゃあキュウヘイはカナコとキクコの参加賛成ということで、権左右衛門はさっき意見聞いたし、あたしの番ね。あたしも賛成、っていうか大賛成。あの二人さっき権左右衛門が指摘したとおりとにかく静かにしてられない万能選手みたいなところがあって、普通免許はもちろん大型自動二輪の免許や船舶一級免許なんかももってるのよ。それに、ワインソムリエの資格や美容師、司法書士、不動産鑑定士、調理師、税理士その他諸々の、とにかく資格だらけの人生を送ってきてるの。だから、敵への刺客としてはこれ以上の人材はないわ、ふっ、ねね分かった? 今の分かった? 
 え? なにが? 何を分かれというのじゃサラ。
 ん、もうだからジョークを解さない人間は嫌なのよねぇ、だから刺客と資格をかけたわけ、どーお? 
 そういわれましてもですな、なぁ権左右衛門。
 ぼ、ぼくちゃんと分かってたし、とってもウイットに富んだジョー小泉みたいなジョークだと……。
 このこのこの、裏切りモンがぁー。
 あーあ、二人で揉めないでよね。それでさぁ、追加提案があるんだけどいーい? 
 うむ、なんじゃ? 
 あのさ、うちのワカナとサトシもさぁメンバーにしようかと、というよりあの二人、仲間はずれにされるとすごーく落ち込むのよねぇ。ぼくら不必要な人間なんだぁー、なんてまた号泣されたらたまんないし、ワカナが落ち込んで食事作ってくれなくなったらほんと困るし。
 おお、ワカナさんはええのう、こうプリッとしたケツがなんともいえんわい、ひひひ。
 ぼ、ぼくはお二人が加わることには大賛成です、ワカナさん美人だし。
 あのなー、あんたらの選考基準はそれだけかい! 
 うむ。
 はい。
 サトシはどうよ? 
 あっ、どうでもいいワシ。
 ぼくも。
 あっそ、ほとんど関心なしということね。そんじゃ、メンバー構成はそういうことで、今日家に帰って確認取ってみるわね。

 カナコ、これ美味しいね、ステーキ。
 そうね、とっても美味しい、最高! ご飯はやっぱり白ご飯に限るわよねぇ、ね、サラ、キクコ。
 そうよねぇカナコ。ワカナもサトシもなんでステーキじゃないわけ? それにご飯も玄米ご飯だし。
 あのなサラ、ワカナがぼくの健康を考えて一所懸命作ってくれたこのブリ大根とシジミの味噌汁それにグリーンサラダ、とっても健康的って感じでそーんなステーキなんか、ぼくは、ふん、た、食べたくもないわけ、分かったか、この! 
 サトシ、いってるそばから目がステーキにいってるし……。
 そ、そんなことはなーい! 
 サトシそうよね。サトシはわたしのこと愛してるモンね。
 うん。
 サトシーイ。
 ワカナーア。ひしっ! 
 あのねえ、お二人さんTPOを考えなさいよね、分かった。
 ワカナー。
 サトシー。
 こらっ! ええかげんにせい! 
 いて。
 いたーい、暴力はいけないわカナコ。
 ふん! 
 みんなに聞きたいことがあるんだけどいいかな? 
 なーに、なによ、なに、なに? 
 そう四人いっぺんにいわないで! 
 サラ早くいってごらん。
 うーん、これはね、ワカナにもサトシにも、もちろんキクコやカナコにも関係するんだけど……。
 いやだ、いやだいやだぁーっ! 
 ど、どうしたのカナコ? 
 だって、だって、だーってなんでわたしが一番最後なのよぉ、一番最後に名前が出てくんのよぉー。
 へ? そだっけ? 
 へ? なんて、サラあんたこのカナコさんを舐めてんじゃないよ! 
 い、いや決してそんなわけでは……。
 じゃ、どんなわけよ! 
 ど、どうしたのよカナコ? 
 キクコあんたはおだまりっ! 
 サトシさん、ワカナあんたらもお黙り!
 (わたしたちさっきから黙ってますけどねぇサトシ。)
 (うん。カナコ、今日ひょっとしてビールコップ二杯飲んだ? あっ、いつの間にか飲んじゃってるぅ。)
 じゃそういうことで、宴もたけなわですが。
 サトシさんなに勝手に人の話打ち切ってるのさ、ばか! 
 へいへいぼくはどうせ馬鹿です、馬鹿の馬鹿の大馬鹿者のトンチキチンです! それがどうかしましたかっ! 
 おっ、馬鹿の逆ギレ、きゃははは。
 あのね、カナコ、そしてみんなもよーく聞いてよね、いーい。
 聞く聞く初めっからそういやぁいいんだよサラ、あたしを一番にいえばなんの問題も起こらなーい! 
 そうねカナコ、んでね、あたしとキュウヘイと権左右衛門とでとある結社を立ち上げるのよ、それでそのメンバーに四人を加えてあげるから。
 おーいいなそれ。
 いいなーってなんにも分からないうちからこの無責任サトシ! 
 あっ、ワカナに叱られた。
 やーいやーい、叱られてやんのサトシ。
 カナコ、キクコ二人ともはしゃぎすぎ! 
 わーいわーい、叱られてやんの。
 ん、もう、話が進まないんだから。
 サラ、気にしないで話を続けなさい。
 ワカナありがと。その結社というのは日本の最小公倍数的年齢構成である我が家が、各世代の深層に深く深く沈澱させている若しくはさせられているあるいは押し込められている又は諦観せしめられているか……誰か止めてよ。
 それで? 
 ま、とにかくそういう諸々の思いを行動的広報媒体であるある物をフルに活用して世の中にアピールし、日本の明るく正しい未来を築こう、というものなんだけどね。分かった? 
 うん、分かった。
 おー、すごい、いってるあたしが分かんないのに四人いっしょに分かったハーモニー、よし、それじゃ次の日曜日にみんなを我が家に集結させるから夜露死苦(ヨロシク)!
 
 えー、本日は皆さんご多忙中にもかかわりませず、結社結成会議にご出席頂き誠にありがとうございます。事前にお知らせ致しておりますように、本日のメインテーマは結社名の決定と第一回行動の具体的内容の決定であります。皆様の忌憚のないご意見をよろしくお願い致します。
 サラ、なんかいつもと違ってピシッとしてるよねキュウヘイ。
 うんそうじゃのう権左右衛門。
 まずは結社名についての記名投票をおこないます。今から配布する紙に結社名を一つだけ書いてあたしに提出して下さい。
 なー権左右衛門、お主なんにする?
 ぼ、ぼくは、教えない。
 そこっ! 話はしないのっ!
 
 それでは、開票しまーす。
 紅蓮、キューピー、ヒバリ、勝、素敵、紅蓮、紅蓮
 紅蓮に三票が入りました。一応、キューピーと記入したキュウヘイから話を聞きます。なんでキューピーなの? 
 ワシは幼少のころからキュウヘイという名で、おめめがクリクリして可愛かったからキューピーちゃん、といわれておった。それにキューピーマヨネーズが大好きじゃからな。
 ……。
 じゃ、ヒバリと答えた権左右衛門。
 ぼ、ぼくヒバリいわゆるラークが高く高く舞い上がっていく様が大好きで、現在の社会情勢を鑑みるとき、ヒバリのような俯瞰的視点を持った組織ないしは個人が絶対的に必要だと平素から考えているのでこの名にしました、それに、ぼく、野球のゴールデンラークスのファンなので。
 勝と素敵との答は、カナコとキクコよね、なんなのこれ? 
 なんなのこれって、センシビリティに欠ける女、ねぇキクコ。
 そ、まったく身内として情けない。
 ごちゃごちゃいってないで、早く理由いって。どうせ勝は、豚カツ、素敵はステーキで、それを食べたいからっていう形而下学的欲求から出たものなんでしょうけど。
 おー、インテリジェンスにも欠けてると思っていたけど、意外とやるねぇ、これでいつ死んでも悔いはないねキクコ。
 いやよ、死ぬならあなた一人でどうぞ。
 サトシとワカナについては、聞くまでもないから割愛します、二人ともそれでいいですね? 
 ……。
 ……。
 二人分の……、ってどういうこと?
 ……。
 ……。
 えーいもう! めんどくさ! 
 それでは最後のケツをとりまーす。一番票の多かった紅蓮に賛成のひとぉ。一、二、三、……んとっ、全員ですね。じゃ、紅蓮に決定しました。
 ちょっと待ったぁ! 
 なによワカナ。
 サラあなた、あの約束忘れてはいないでしょうね? 
 うんうん覚えているって。
 じゃ、ぼ、ぼくとの約束も忘れてない? 
 サトシ、もちろん忘れてないわ(紅蓮に票入れるからバッカスチョコレート一箱頂戴なんて、ほんとにもう、それでも親かっ!)。
 それじゃ、議題の二つ目、第一回統一行動の具体的方法に移ります。どなたか意見のある人。
 いーいサラ? 
 ワカナどうぞ。
 わたくしね、わたくし、家事を預かるものの立場からいわせて貰うけど、消費税のアップは直接家計に響くから、一般家庭の共通の問題点だと思うわけ、それで消費税アップ断固阻止を第一回目の論点に据え、徹底抗戦したらどうかしら?
 ぼくワカナの意見に賛成! 
 はいはいサトシさん、サトシさんはワカナと一心同体だもんね。
 お、よく分かってるねサラ。
 そりゃそうよ、何年あなたたちと付き合ってると思ってんの。あたしは、原発、原発絶対廃止。カナコそうね。
 あたしも賛成だよ、日本の事故を受けてドイツなんか早々と原発全廃に舵を切ってるのに、本家本元の日本が継続を表明したばかりかインドやトルコなんかの外国にまで売り込みかけてんだから、まったく恥知らずもいいところよ。サラたまにはいいこというじゃん。 カナコ、たまにはってどういう意味よ、は? 
 たまにはは、たまにはだよ。あんたの場合は、極くまれにといった方がいいかも。
 ふん! なんとでもほざけ。
 サラそんな下品な言葉を使ったらワカナ悲しい……えっえっえっ……。
 わ、ワカナなにも泣かなくてもいいじゃん。
 だって、だって二人がわたくしのためにいい争いをするなんて耐えられない、わたくしって罪な女。
 あのなーワカナ、あんたなーに勘違いしてんのさ、ま、いっか、いつものことだし。
 権左右衛門とキュウヘイ、さっきから黙ってるけどなんか意見はないの? 
 ワシは一番最後に述べることに決めておる。
 あっ、そ。
 権左右衛門は? 
 ぼくは基本的には、先程から意見が出ている消費税反対、原発全廃のベースには賛成なわけ。でもね、その他にも現在日本が抱える問題はうなるほどあるよ。
 うなるのか権左右衛門? 
 へっ? 
 じゃからうなるのかと訊いておる。
 そこ? 
 そう、そこ。
 あのね、キュウヘイ、人がさぁ真面目な話してるときにちゃちゃいれないでくれる。
 えっ? ちゃちゃ? そりゃなんじゃ? 
 えーいもう! 権左右衛門、無視して続けなさいよ。
 うんサラ、そうする。
 お、お、お、お主らそんな薄情者じゃったのか。
 そ、ぼくら薄情コンビ、んで、どこまで話したっけ、あ、そうそう現代日本が抱える問題が山ほどあるっていう話からだった。それで、その他どんな問題があるかというと、まずは特定秘密保護法の成立、お次が憲法解釈の変更による集団的自衛権行使閣議決定、介護保険制度の改正による弱者切り捨て、生活保護法の改悪、まだまだあるぞ。マクロスライド制導入による年金の削減、法人税の大幅減額、高齢者の医療費負担を一割から二割にアップ、どうだ、凄いだろう。
 って、あんたが威張ることないじゃん。
 サラ、そ、それはそうだけど、そんなにバッサリいうことないと思うんだけど……。
 じゃああ、どう申し上げれば納得されるわけ、権左右衛門様としては。
 い、いや、そのままでいいですぅ。
 そ、初めっから素直にそういやぁいいじゃん。以後気をつけなさい。
 はいはい。
 はいは一回! 
 はい。
 はーい良いお返事ができました、それで結論的には何をどうするっていうわけ? 
 それで、一回ごとにテーマを変えてやってみたらいいと思うんだけど。
 そうねぇ。
 いよいよワシか、紅白歌合戦も大物は最後だし、トリだし、ワシ鳥肉大好物だし。
 キュウヘイなに勝手に喋ってんのよ。
 サラまあまあ、あんまりカリカリするとお肌に悪いぞ。
 ふん、あたしのお肌なんてプリップリッのピチッピチよ、それよかあんたの考えいいなさいよ、みんなそろそろティータイムに入りたいんだから簡単かつ明瞭にネ! 
 おお、ワシに任せておけ。
 任せるから早く。
 そうせかすでない。
 ん、もう、この偏屈野郎! 
 うっうっうっ……、サラ、またそんな下品な、下品な……、うっうっうっ……。
 わ、分かった分かった、分かったから泣かないでよワカナ、もう、ややこしいのばっかであたし頭痛くなっちゃう。
 頭痛にノーシン。
 ぼかっ! 
 いて。あー痛かった。それじゃワシの考えをば。ワシな、なーんも主張せずにワシらがただ走るだけでいいと思うぞ。
 それじゃ、なにがなんだか分かんないじゃん。
 ちっちっチッ、甘いのうサラ、なーんも主張せず、ただしずしずと整然と走るんじゃ。するとみんな、あれっ? なにかな? と不思議に思うじゃろう、そこが我々の狙いじゃ、そこで例のあれをばババッと取り出して、トップが掲げるわけじゃ。
 おお、ナイスアイディア。
 うーむ、キュウヘイ結構やるじゃん。
 わたくしも良いと思うわ。
 ぼ、ぼくもなーんか賛成。
 そーお、みんなそれでいいわけ? 
 いっぎなーし!

 みんないーい、気合い入れていくのよ! 
 おおーっ! 
 トップはカナコとキュウヘイね、んでセカンドがワカナとサトシ、ケツもちがキクコと権左右衛門とあたし、分かった。
 おおー!
 土曜の夜十一時、他の結社も警察も集合してるわ、うーん、なーんか燃えてきた。それにしてもなんで三台ともカブ号なわけ? もっとかっこいいのがあったでしょ、ハーレーダビッドソンとかドゥカティとかキクコとカナコがいつも乗ってるやつ。
 あーあれ、このカブ号ととっかえっこしちゃった。
 えー、信じらんない。
 ま、ま、サラ、そろそろ行こうか。
 いよいよワシらの幼いころからの夢が叶うわけじゃ、ふぉっふぉっふぉっ。
 あのねぇ、キュウヘイあんた中二なんだからそんなジジイみたいな物いいはやめなよ!
 カナコやキクコだってもう後期高齢者じゃろうが、分をわきまえたが良いぞ。
 うるさい! 
 あらあら、みんな仲良くしないとだめよ、そうでないと、そうでないと……わたくし、わたくし泣いてしまいますから……。
 ワカナここで泣いちゃだめだ、耐えるんだワカナ。
 うん、サトシがいうんならワカナ頑張る。
 どうでもいいけど行くよ、いーい。
 おー! 

 至急至急、軽視庁から港湾。
 港湾ですどうぞ。
 港湾バイパスにマル走……えーっと、といえるかどうか分からないが……カブ号三台が法定速度三十キロで走行中。中学生らしい男子二名、女子三名、三十代後半と思われる男女各一名の計七名が分乗している模様。
 港湾了解。港湾1了解。港湾2了解、現場へ向かう。
 了解、以上軽視庁。
 港湾2から軽視庁。
 軽視庁ですどうぞ。
 港湾2現着どうぞ。
 軽視庁了解、状況送れどうぞ。
 了解。
 おっ、おっ、パトカーきちゃったよ、ワカナ。
 サトシ大丈夫よ、わたくしがついてるから。
 そうだね、大丈夫だね。
 きゃぁーパトカーよ、パトカー、あたし近くで初めて見たわ。
 カ、カナコどうでもいいけどちゃんと前見て運転して欲しいぞワシ。
 なーんだキュウヘイ震えてんじゃん、年寄りぶっても所詮中坊ね、ふふ。
 なーにをいっておる、ワ、ワシが震えておるじゃと! そ、そんなことは、そんなことは絶対になーい! 
 わーったわーった。それよっかあんたしっかり旗持っててよね。
 心得ておる。

 港湾2から軽視庁。
 軽視庁ですどうぞ。
 状況送る。三台はすべてカブ号。真紅のレザーつなぎの女性運転の後部座席に中学生風の男子が乗車、この先頭を走るカブ号の後部座席に乗車している中学生風の男子が真紅の旗を掲げている。旗には、旗には……紅蓮という黄金の刺繍あり。
 ぐれんか? どうぞ。
 そのとおり、ふりがながふってある。二台目は灰色のジャージ姿の男性運転、後部に割烹着姿の女性、いずれも三十代後半位、あっ、今、当該女性が本職らにVサインをしてにっこり微笑んだ。か、かわいいー。チョウかわいいー。
 軽視庁から港湾2。
 港湾2ですどうぞ。
 余計な感想を挟まないようにどうぞ。
 了解。ケツもちは、黒のレーザーつなぎの女性運転、黒色フルフェイスで年齢不詳、後部座席に青白い顔のメガネの少年とショートカットの女の子乗車。
 マル走と判断されるのか、どうぞ。
 はっきりいって分からない、どうぞ。

 カナコもっと早くはならんのか? 
 なにほざいてんのよ、法定速度厳守! 
 権左右衛門、楽しい? 
 ……。
 権左右衛門? あんた顔真っ青だけど大丈夫? 
 ……、たったっ、たーのしーい、超たのしーぃ。
 キャッホー〜


散文(批評随筆小説等) 紅蓮の旗 Copyright 草野大悟2 2014-08-16 22:09:43
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