釦の追憶
瑞海

最近よく夢を見るんです
出兵直前のあなた
居間に堅く座って
じっと私を見つめておりました
いつもらしくないと思っていたら
軍服の釦が掛け違っていたので
やはりあなたはあなただ
と思いました

最後釦を掛け直す時
あなたに触れれてよかった
少し肩を震わせるあなた
私は幸せ者であったと
今でも思います

戦友からの土産
相変わらず他人に優しいあなた

しっかり家族は守りました
おかげでひ孫も持てました
あなたに似て
男の子は少しつり目で
女の子は色白で

身体に気を目一杯配りました
おかげで今は95歳
ぼけずに元気にしておりますが
もうすぐかもしれません

右肩が戦の傷で
少しえぐれたみたいですね
私もあの頃とは違い
顔に皺がたくさん増えました
あなたが褒めてくれた笑窪も
どれか分からないぐらいに


あなたに話すことたくさんあります
そろそろそちらへ伺いますから
決して皺くちゃお婆さんが
あなたの前に現れても
嫌な顔をしないでくださいね
出来れば気づいて欲しいけれど
もし忘れてしまったなら
もう一度お友達から
ゆっくり始めましょうか

時間はたっぷりあるのですから




自由詩 釦の追憶 Copyright 瑞海 2014-08-15 22:50:26
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