白夜
草野大悟2
頭の中に眠っていた蝉が摘出された冬
ぼくは石になった
意識は確かにあるし 五感もしっかりしている
でも
転がっている
新しい臍から注入される食事と薬
定期的に交換される下半身
ゴロゴロ ゴロゴロ
石のかなしさよ
ぼくをのぞき込みながら
鬼のように笑う 君
どこにも行きようのない石と君とが
白々と物語を紡ぐ日常に少しばかり倦んできたのは
時の必然かもしれない
煮詰まった空
真夏
ぼくらの名前は
絶句するほど神に見放されていることを知った
名付けられた記号に操られる空蝉
なんの咎もないのに
そうか
君はそんな螺旋の縛りのなかを吹いてきたのか
呟いたとき
鉛色の空に
ぽっかり
檸檬が浮かんだ
楕円形の笑いを浮かべたそれは
ひとしずくの涙さえ拒否するような
氷の衣をまとっていた
存在を奪われた
石と君は
どこに転がり どこを吹けばいいのだろう
羽化してきたばかりの抜け殻にもぐり込めばいいのだろうか
蝉が鳴く深夜
戸惑いは 迷子になった
蝉は行方を知っている
知っているが知らないでいる
雨が横殴りに降ってきて
部屋の中をかき回す
あのころ泳いでいた鮫は
どこへ行ってしまったのだろう
碧落のはてに干潟は沈み
行く夏ははらはらと降り積もり
君と石の眠るべき場所さえ奪い去る