輪っかのついたレミング
nemaru

電車を降りると
人が集まってきた
テレビカメラもある
帽子を被ったひげメガネが
後ろを見てください
あれ
阪急だ
京阪に乗ったはずなんだが
そうです
そうなんです
気が付きませんでしたか!だーいせーいこうー!イェー!
みんな笑顔でハイタッチ
カメラの口元もにやけている
いい画が撮れました
ありがとうございます
今から元の駅に戻しますんで
そーれっ
いいっすいいっす
ここでいいです
え…
どこで降りても一緒
パチ屋なら携帯で調べられるから
そんな…
クルーに
重苦しい空気が流れる
小柄な女性は今にも泣きそう
集音マイクが震えている



一つ目の
巨人は
あくびをして
靴を履いた

今日は崖当番の日
可動式の崖の幅を調整する
昨日は鹿が三匹渡り損なって
谷底に転落
記憶は失ったものの
今日も元気に草を食んでいるらしい

藁葺きの制御室
新聞記事を読み終えて
一つ目の巨人は
今日の幅について考える

あいつは落とすのが好きだからな
俺は違う
飛べない崖は
ただの崖だ

揮発油

蝸牛

水筒

風媒

三本指でごりごりと頭をかきながら
飛べた時の気持ちよさを
満月に照らされた
伸びきった鹿の
陶酔した
誇らしげな身体を
スローモーションで
想像しながら
巨人は不器用な手つきで
ハンドルを回す



頭に輪っかのついた
レミングなら
俺の隣で寝てるよ

誤解は解けたようだけど
憔悴しきっている

今だけは
もう少しだけ
寝かせてやってくれないか

明日からは
もっと
むごたらしく
剥ぎとられていくだろうから


自由詩 輪っかのついたレミング Copyright nemaru 2014-08-11 12:36:26
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