Une Tropique Triste (かなしい熱帯)
Giton

熱帯がやってきた
渦巻きが熱い空をはこんできた
雲のないウルトラマリンがやってきた
木々の葉は分厚い濃色になり
くっきりと影を落とし
風にちぎれてぱちぱちと戸をはじく

うなぎが流されてきた
渡り蝶が飛ばされてきた
なつっこい褐色の少年が日向ひなたで笑っている
ぎざぎざの葉はきみのむねをぱちぱちと刺し
微沙は灼け
あおむけに目をつむるきみの頬にあせ

あぶないよ あぶないよ くずれそうだ はじけそうだよ 髪はゆれ
ひろがってゆく63分27秒前のキス
あつめてくる72分9秒前の戸のきしり

風はとまらない 白い帆は遠ざかる
ぼくらを吸いこんで空っぽの夏に消えるあけいろの漸近線
きみは抱擁するこの世界を
陽灼けたあわい肩をぼくはみちたりてなぞる

あぶないよ あぶないよ くずれそうだ はじけそうだよ 窓はゆれ
ひろがってゆく12分5秒前のキス
あつめてくる33分7秒前の戸のきしり

まっすぐに延びる細い二本の輪郭線
操縦桿を握るきみの手にはあせ
すべってゆく はしってゆく もう誰にもめられない High Way


自由詩 Une Tropique Triste (かなしい熱帯) Copyright Giton 2014-08-11 03:33:19
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