有情無情
DAICHI
僕が息をしていられるだけの、空間をください。
それ以上のものは、いりません。
僕が一日一日を生きていけるだけの、食べ物をください。
出来れば三食。
僕が欲しくなった時に、必要な分だけいただけたなら。
もうそれだけでいいのです。
代わりに多くは望みません。
今日を不足なくいられるのなら。
明日もそれが続くというなら。
蓄える必要など、あるのでしょうか。
備える必要など、あるのでしょうか。
余った分は、全部あなたに差し上げます。
今日を今日として生きられるなら。
明日もそれが続くというなら。
お金なんか、無くてもいいのです。
お金なんかで、なくていいのです。
今日を生きたら今日の分だけ。
明日を生きたら明日の分だけ。
大切なものが出来たら、その人との分だけ。
大切なものが増えたら、その人たちとの分だけ。
ただそれだけで、幸福なのです。
ああ、でも。
突然僕が、動けなくなったら。
ある朝僕が、動かなくなったら。
ああでもそうだな、そう考えたら。
お金でなくては、いけないのかな。
蓄えてなくちゃ、いけないのかな。
大切な人が出来たら、その人の分だけ。
大切な人が増えたら、その人たちの分だけ。
めんどうくさいな。
ひとりでいいかな。
ひとりがいいかな。
ひとりもいいよな。
ひとりはいいよな。
ひとりでいいよな。
ひとりがいいよな。
ひとりは、いやだな。
わがままな僕たちが、息をしていられるだけの、世界をください。
どうか。
どうか。
とっくに誰かがそう考えて。
いま現在現代は、そう出来ている。
浅薄な僕の、異論を差し挟む余地などなく。
無い知恵を振り絞ったところで、悩む材料の増えるからくり。
既に有情な世界の無情に、遠くのビルの複眼が滲んで。
押し潰された僕たちの、骨の飛び降りる匂いがした。