特急電車は警笛を鳴らし
Lucy

ケイコさんは
帰る家を探している

いつか住んだことのある
川の傍の古い洋館
蔦が壁一面を覆った
赤いトタン屋根に
所々塗りの剥げた
白いバルコニー

夜になると屋根裏を鼠がはしり
両開きの窓の木枠が
キィと微かな音をたてた

赤い煉瓦を積み上げたペチカには
黒い扉のオーブンがついていて
林檎の焼ける匂いがしていた

あたしたちはそこで
父さんの帰りを待っていた

庭のダリアが咲き終えて
カラスが鳴き騒ぐ夕暮れが
何度通り過ぎて行っても
戻らなかった父さん

今夜 ケイコさんは
線路を歩く
遠い異国の戦地から
父が帰ってくるはずの家を目指し

電車のライトが
ケイコさんの形の影を
線路の上に細長く引き延ばす

林檎の焼ける匂いがする









自由詩 特急電車は警笛を鳴らし Copyright Lucy 2014-08-09 18:04:49
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