特急電車は警笛を鳴らし
Lucy
ケイコさんは
帰る家を探している
いつか住んだことのある
川の傍の古い洋館
蔦が壁一面を覆った
赤いトタン屋根に
所々塗りの剥げた
白いバルコニー
夜になると屋根裏を鼠がはしり
両開きの窓の木枠が
キィと微かな音をたてた
赤い煉瓦を積み上げたペチカには
黒い扉のオーブンがついていて
林檎の焼ける匂いがしていた
あたしたちはそこで
父さんの帰りを待っていた
庭のダリアが咲き終えて
カラスが鳴き騒ぐ夕暮れが
何度通り過ぎて行っても
戻らなかった父さん
今夜 ケイコさんは
線路を歩く
遠い異国の戦地から
父が帰ってくるはずの家を目指し
電車のライトが
ケイコさんの形の影を
線路の上に細長く引き延ばす
林檎の焼ける匂いがする