食事
塩崎みあき
1 食卓
みんなで食卓を囲む
食卓には
栄養豊富な食事が運ばれ
それを食べて
どうやら私は
育つらしい
けれど食卓には
いつも
一人分の席しか
用意されていない
2 かみくだく
栄養が
身体のすみずみまで
よく行き渡る
あごが痛くなる
固いものを
勢いまかせにかむと
歯茎から血が出た
だれも一言も発しない
食事は流れてくる
お腹がいっぱいになる
流れてゆく
流れてゆくお皿を
じっと目で追いかける
だれも一言も発しない
3 このごろ
あの人の考えている事が
合理的すぎて理解出来ない
一人分の席に他人が座っている
他人
というのは
私ではない人
という意味
栄養豊富な食事が運ばれ
それを食べて
どうやら他人も
育つらしい
かなしいのか
つまらないのか
いらだたしいのか
さむいのか
だれもなにも言わないので
口からは
血のにおいがする息しか
出てこない
4 廃棄
お皿はすべて廃棄される
おはしも
おちゃわんも
コップも
テーブルも
イスも
そうして
私たちはまた
食事が運ばれるのを
待っている
なにもしなくたっていい
なにも言わなくっていい
ここに食事が運ばれる
それがなによりの
幸福の証明で
廃棄したものとは
偽の笑みをうかべた
非情な口
5 栄養
疲れる
まったく覚えのない
生まれる前の
決まり事
あの人は
私たちが生まれる前にも
栄養を運んでいた
それを摂取して
どうやら私たちは
生まれたらしい
あの人にも
そういう風に
してくれた人
いるのだろうか
もしいるのなら
その人に
会いに行く
自分の足を動かして
本当に
笑って
そうして
もう少しだけ確実に
繋がっていられたらいいな