嘘つきの星のもとに
まーつん

 ある少年がいた

 何処かに
 旅に出たくても

 そう簡単には
 身動きのならない
 身の上で

 金もないし
 健やかでもないし
 勇気もないし
 運もない

 ないないづくしで

 だから、彼は
 ベッドの上で詩を書いたり
 物問いたげな飼い猫に
 何かを物語ろうと
 試みていた

 彼が
 鳥になれるのは
 多分、言葉の世界だけ

 彼が
 英雄になれるのも
 多分、言葉の世界だけ

 彼が、裸で
 旅にたてるのは
 多分、言葉の世界だけだった

 それを
 嘘つきというのなら
 なるほど彼は、嘘つきだ


 なにも
 寝たきりの病人
 という訳じゃない

 ただ、狭い部屋から
 出ていく勇気が
 なかっただけ

 勇気を持った人々は
 雲の上や、谷の底にいて

 彼には到底
 受け止めきれない
 喜びや、痛みを

 岩のように背負ったり、
 シャンパンのように
 頭から浴びながら
 日々生きていた

 そうした
 手の届かない所で輝く
 生の火花に、触れてみたい

 彼が
 やろうとしていたのは
 多分、そういうこと

 火傷が怖いくせに

 だから、
 言葉で自分を作り直し

 痛みのない物語の世界を旅し
 失望のない詩の世界で遊んだ

 だます相手も
 そのツケを払うのも
 他でもない、自分自身

 彼にとって言葉とは
 夜空に散った
 星と同じ

 様々な色をした
 光の点を線で結んで
 自分だけの、星座を描く

 今夜も
 ベッドに寝転がり
 低い天井に、星空を見る

 その指先で
 星と星とを
 結びつける

 横になって
 動こうとしない身体と
 手を繋いで踊りだす
 沢山の言葉

 寒い生き様を
 創造の火花で温める

 少年の心は
 いずれ
 凍え死ぬのだろうか

 満天に
 夜を燃やす
 



 星明かりの元で










自由詩 嘘つきの星のもとに Copyright まーつん 2014-08-05 18:12:27
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