風の彫刻
まーつん

 手を付けないでおこう
 自分という作品に

 決めつけないでおけば
 何にでもなれるだけの、柔らかさが
 人の内側には、まだ残っている

 手を付けないでおこう
 描きかけた自画像に

 仕上げるにはまだ早い
 絵筆を一度置いて
 カンバスを風にあてる
 窓から招き入れる、空の息に

 しかし、
 嵐の匂いを嗅ぎ取って
 私たちは、部屋を閉め切る

 無数の戸口の前で
 足踏みをする
 沢山の風

 いずれ
 ドアを押し破り
 アトリエに入ってくる

 床は剥き出しのコンクリ
 降り積もった埃と、鼠の糞を
 宙に巻き上げながら

 風は、
 未熟な理想が描かれた
 カンバスを引き裂き
 手つかずの石膏に、牙を剥く

 風の軌跡は、石の周りで
 脱水機の様に渦を巻く
 無垢の塊を切り刻む
 荒々しい抱擁

 そうして
 彫り上げるのは
 君や、私の姿をした

 幾つかの彫像

 狭いアトリエは
 白い粉で視界が曇り
 静けさと重力が、時間をかけて
 澄んだ空気を取り戻す

 その時
 私たちの前に
 立ち現われる立像は

 苦悶に身を
 曲げているだろうか?

 歓喜に両腕を
 広げているだろうか?

 時代の風に
 削り出された

 私たちの
 心の姿



自由詩 風の彫刻 Copyright まーつん 2014-08-03 11:31:22
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