八月のそらの夢
umineko

八月。

私たちの街は。少し空気が、変わる。
街宣車が増える。黒塗りの車。
スピーカーから、流れるテープ。

ツーリストが増える。
大型バイクが空気を、揺らして。

外国人が、増える。
たいていは年輩のご夫婦だ。
奥様はおしなべてプラチナ・ヘアの。

八月六日。
何度目かの歴史をなぞる。
私たちは黄色い猿だったので一瞬のうちに灰になってしまったそれが正しかったとはとても思えないけれどそれを正しかったという人もいる。

砂漠の町で。今日も見知らぬ人が死ぬ。
あなたたちはみんなテロリストでその空気そのものが罰すべき対象だと思っている人がどこかに。どこかにいる。

平和を訴えたシンガーは銃で撃たれた。
その高いビルは震えながら崩落した。

愛は正しさとは無関係だあるいは愛さえも残酷に時に人を。
正しさにルールはなくすべての証文はすりかえられてジャスティス、正義と公正さは同軸のものだったのにあるいはそう信じたくなるほどそれはもろく。

幼い夢の。

八月六日。
黙祷するこの街の朝。
サイレンがしずかに響く。

私は。
未来に祈ったことは一度もない。

神様なんていないから。
 
 



 
     
初出:現代詩フォーラム2006/7  
      ちょっとだけ改訂

 


自由詩 八月のそらの夢 Copyright umineko 2014-08-02 09:42:05
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