陽向




道路に飛べない鴉がいた 危うく轢きそうになった
大人という者は 大人という冠を被ったガキだ
もう短い命だろう この鴉はそんな大人たちよりも
余程 命を懸けて生きている

……

何もかも どうでもいい
何もかも あるからこそ どうでもいいと思う
どうでもいいなら 何もかもあることに感謝する

「だって そうやって思う事を強いられたとして それもどうでもいいんだろ」
「何もかもだもんな」
「なら したまえ 冠を失いたいか?」

こんな時はどうでもよくない どうでもいいけどそれはどうでもよくない
理性 感情 どっちが優先 いやどっちもだね どうでもいい!

……

鴉は草むらの方へ入っていった
僕は何を見たのだろうか あんなに苦しんでいる鴉を見て 僕は何を思っただろうか
そうこうしている内にも 時間と共に 僕は鴉を忘れて自分を取り戻す

 夢 など考え始める 現実 など考え始める 虚しさ など考え始める

鴉のことを心配していた自分はとっくにいなくなっている

「助けてあげた方がよかったか…?」

頭が発した言葉 心は面倒がっている
「助けなくては!」

鴉はいなかった 鴉はどこにもいなかった
心は安堵のため息をつく 用事が増えるのが面倒だからだ 車が汚れるからだ

……

罪悪感
未だに助けようと思う自分に情けなく 助けることを面倒に思う自分に

鴉の鳴き声が聞こえた
あまりにも元気な鴉が 空を悠々と飛んでいる

……

心はすでに元気な鴉へと移っている 頭が引きとめる
さっきの鴉は苦しんでるんだぞ

……

僕は 心も頭も自分を取り戻し いつの間にか スイカが轢かれている道路まで来ていた

きっとあの鴉はもういないだろう 元気な鴉はいるだろう
あの時はもう何も考えていなかったが 今になってそう思う

罪悪感 今では何も感じない










自由詩Copyright 陽向 2014-07-31 15:17:34
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