蝉時雨
nonya


蝉時雨が
それほど新しくない記憶を
影縫いするものだから
そのまま置き去りにもできず
立ち止まる

吹き出す汗
ハンカチを忘れたことに気づく
いつもそうだった
肝心な時に何かが欠けているから
想い出がみんな傷痕になってしまう

遠ざかる淡い背中
はしゃぎ過ぎるノウゼンカズラ
押し黙るクロアゲハ
急に想い出した
言わなければいけなかった言葉に
火傷しそうになる

すうっと風が渡って
一瞬 蝉時雨が止む
濃密な結界が解けたように
そろそろ歩き出す

手の甲で拭うものは何?
拭い切れないものは何?

誰も裁いてくれない過ちを
全身にまといつかせたまま
雑踏に逃げ込もうとする背中に
容赦なく突き刺さる
ふたたびの蝉時雨




自由詩 蝉時雨 Copyright nonya 2014-07-30 20:35:44
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