南風
千波 一也



橋の途中で車を停めて
降りてみたのは
海風のなか

半袖のシャツを抜ける海風は
きみとぼくとをかすめて
手の届かない
ブルーになる

うっすらと
肌をぬらした汗も
すっかり剥がれ落ちて
もう、何も語らなくてもいいほどに
そこは南の島だった

言葉は時に無力だね、って
そんなこと
わざわざきみには
伝えなかったけど
そんなふうに思いながら
ぼくはシャッターを押していたんだ

橋の途中で車を停めて
歩いていたのは
ふたつの呼吸
かりそめの
南風

遠く
思いを馳せるしか出来ない
あの夏の日は
胸のなかで
笑んでいる

誰にも代われない
優しく疎遠な
結実の、
二度とは訪れない
二度とは出会えない
一度きりの
ブルー

時に
場違いな幸せを語りかけて
ぼくはこっそり
笑んでいる

きみの隣で
この夏もまた
かりそめの身を心得て
惜しみなく
渡って
いく







自由詩 南風 Copyright 千波 一也 2014-07-28 23:50:40
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【きみによむ物語】