水の駅
千波 一也



はるか
昔を向いているひとの
すべてが灯りと
なりますよう、
祈るわたしは
濁れるわたし
ひとごとみたいに
まったく淡い
時刻表

五本の指があるわりには
そこに受け取らされる
小さな切符
両の目で
ようやく確かめられるほどの
小さな印字
持てるちからを
さらけ出すよりほかにすべのない
穏やかな往来の
水面下

めぐりめぐる
水の世界で
あいさつ言葉は
どれほどの意味を
なくさずに往けるだろう
心許なく
改札をくぐる
無言のうちの
あいさつ言葉を
だれが心に留めるだろう

はるか
未来を描いているひとの
まぶしさは、そう
汽笛と似ている
どこが過去たる境目か
どこが行方の限界点か
停まる者には
定かでなくて
そのくせ困りはしないから
汽笛と似ている

わたしにしかいえない
始発の駅の名は
ちがう名で
だれもが
いえる

事実に乗ることと
真実に乗ることとは別物、と
よくわからない話をされたのは
いつだったろう
だれだったろう

空と列車が
湖面にうつり
車窓を通過してゆく

間違えてはいけないことなど無い
いいえ、間違えることなど
あり得ない
なぜなら
次にも
次の次にも
駅はあるから
降りても降りなくても許される
駅があるから

絶え間のない幻の向こうには
やはり絶え間のない幻がある
だからわたしは
ひとりで在らねばならない
此処に
ひとりで在らねばならない

守られることがなくても
守りたくてしかたのない
ささやかな一滴の
その無限が
枯れぬよう、
線路は
錆びても
なお線路である身をうたがわない









自由詩 水の駅 Copyright 千波 一也 2014-07-26 22:20:56
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【水歌連珠】