ぶっつけ未詩 4
Giton

  .
もう帰って来なさいよ、と浪は騒ぐ‥
いや、もうすこし居させてくれ、と私は呟く‥
  .
きょうは、黒い雲が沸いている天末線
紫苑色、藍銅、青金石の固溶体
砒素鏡はなめらかにひろがり
  .
ごろたの重なりが私の脚を傷める
何百浬かの海底を引き摺られて
みんなかどがまるくなったのだ
  .
もう帰って来なさいよ、と浪は騒ぐ‥
いや、もうすこし居させてくれ、と私は呟く‥
  .
藍銅色のブロンヅ板
なにか歴史的事件のレリーフを浮かび上がらせようとするのか
  .
たとえばの話:
やっとの思いでローンを組み購入した家の
通路のような狭い余白に四季の草花が咲き乱れていた──一年目
草は実を結び、その家の硝子窓を嵐のたびに果実が叩いた──二年目
草は芽を出せば家人によって摘み取られ、缶や瓦礫が投げ入れられた──三年目
そんな事件もあったのだなと、無感動になった頭が追想する──四年目
  .
つまらない幻覚だ
  .
もう帰って来なさいよ、と浪は騒ぐ‥
いや、もうすこし居させてくれ、と私は呟く‥
  .
草の芽を摘み取る家人らは去ったが
種をまく気力はもっと前に私から去っていた
  .


自由詩 ぶっつけ未詩 4 Copyright Giton 2014-07-26 02:41:51
notebook Home 戻る