ぶっつけ未詩 4
Giton
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もう帰って来なさいよ、と浪は騒ぐ‥
いや、もうすこし居させてくれ、と私は呟く‥
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きょうは、黒い雲が沸いている天末線
紫苑色、藍銅、青金石の固溶体
砒素鏡はなめらかにひろがり
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ごろたの重なりが私の脚を傷める
何百浬かの海底を引き摺られて
みんなかどがまるくなったのだ
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もう帰って来なさいよ、と浪は騒ぐ‥
いや、もうすこし居させてくれ、と私は呟く‥
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藍銅色のブロンヅ板
なにか歴史的事件のレリーフを浮かび上がらせようとするのか
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たとえばの話:
やっとの思いでローンを組み購入した家の
通路のような狭い余白に四季の草花が咲き乱れていた──一年目
草は実を結び、その家の硝子窓を嵐のたびに果実が叩いた──二年目
草は芽を出せば家人によって摘み取られ、缶や瓦礫が投げ入れられた──三年目
そんな事件もあったのだなと、無感動になった頭が追想する──四年目
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つまらない幻覚だ
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もう帰って来なさいよ、と浪は騒ぐ‥
いや、もうすこし居させてくれ、と私は呟く‥
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草の芽を摘み取る家人らは去ったが
種をまく気力はもっと前に私から去っていた
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