不安の向こう側
greenlemon
「そっちにいっちゃだめだよ」
足元をみると片目のとかげがやけに長い尻尾をふっている
あっちには、なにがあるの?
青い光が、ぼんやり暗闇に溶けている。
とかげは、不安そうな目で、こちらをみる。
ねえ、ちょっとだけのぞいてみてもいい?
とかげは、長い尻尾をびゅんとひとふりする。
しっぽの先をみると、ちいさな矢印がついている。
矢印の指す方を見ると、オレンジ色の光がぼんやりと暗闇に溶けている。
光に近づくと、そこでは・・・
話し出したら止まらない近所の田中さんやいつも行く愛想のいいコンビニの店員や小学校のとき大好きだった先生や毎朝同じ車両に乗るスーツ姿のサラリーマンが、輪になってなんだか楽しそうに笑っている。
わぁ。みんないる。私も入れて。
田中さんが手招きする。
小走りでその輪に近づく。
コンビニの店員が、いつも買う缶入りカクテルを差し出す。
ありがとう。
楽しいな。
ここは、なんだかほっとする。
でも、なにか足りない。これは、いつまで続くの?
みんな笑っている。みんなずっとここにいるの?
ふと見上げると、鬱蒼と茂る木々の間に半分欠けた月がぼんやりと真っ黒な空に溶けている。
青い光の向こうには、なにがあったの?
私は、再び歩き始める。
どのくらい歩いただろう。
「そっちにいっちゃだめだよ」
足元をみるとあの片目のとかげが長い尻尾をふっている
あっちには、なにがあるの?
紫色の光が、暗闇にぼんやり溶けている。
とかげは、不安そうな目で、こちらをみる。
ねえ、ちょっとだけのぞいてみてもいい?
とかげは、長い尻尾をびゅんとひとふりする。
ちいさな矢印が指すほうをみると、薄い黄色の光が暗闇にぼんやりと溶けている。
立ち止まる。
「ほら、あっちにみんないるよ」
「うん・・・」
「あっちは、居心地もいいし、安全だよ」
「うん・・・ でも、なにか足りないの」
「こわくないの?」
「こわいよ。怖いし。不安だよ。でも、あっちに行ってみたいの」
震えるとかげ。
「じゃあ、君は僕を食べなきゃいけないよ」
「そんな・・・」
「迷いは、食べてしまわないとね」