ひとつ 湛える Ⅱ
木立 悟






紙の鏡が風のなかにあり
風ばかり映して黙っている
光の重さに
歪みまたたく


覆うことなく
重なることなく
ただ端は端に
先は先に触れ火を放つ


地に降るかけら
空を照らし
未明は軽く
径は暗く


細かな糸のあつまりが
見えぬままに地を掃きはじめ
光の名前
羽の名前を描きはじめる


風の音 水の音がひとつになり
かけらをかけらに染めてゆく
未明はさらに高く
地はさらに暗い


羊に似た鴉の声が
わずかな光を流れゆく
遠くへ遠くへ打ち寄せる雨
そこにあるのかさえわからぬ地


ふいに境が立ち上がり
やがて倒れ消えてゆく
何もない場所にひらく輪も
花のように消えてゆく


何処かに在るもの 無いままのもの
降りてくるけだものの前足に
やわらかく踏まれる手のひらへ
既に来た朝 来ない朝
広い眩暈を湛えつづける





























自由詩 ひとつ 湛える Ⅱ Copyright 木立 悟 2014-07-17 23:31:51
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