夏の歌
藤原絵理子


透明な大気に満たされていた
谷あいの小さな あの村に
あたしの夏は いつも帰っていった
斜面のトマト畑で 見上げた空に


悲しみはなかった 日暮れの蜩の声にさえ
秘かに憧れていた 少年の笑い声にだけ
今日の次は明日 明日の次は明後日
謂れのない希望は 湧き上がる真っ白い雲へ 


いくつもの季節が 流れ過ぎた
いつの間にか 忘れ果てた 草熱れ
いろんな人の悲しみが 通り過ぎていった 


聳えていたはずの山は 低くお辞儀をして
遠かった山道は ぶらぶら歩きの散歩道
もう帰ってこない あたしの夏は


自由詩 夏の歌 Copyright 藤原絵理子 2014-07-17 01:11:26
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