たとえるなら
岸かの子
たとえるならば
白のキャンバス
ナイフでは出せない
色もまばらな使い古しの筆
なのに、赤だけが多く滲む油絵具
たとえるならば
夢を追う事さえも
見ることも
塞ぎ込まれた純情
掴めない夢はもう無駄だと知った時
たとえるならば
通勤電車のなか
揺られて帰る君を想う
その時は少しだけ女へ戻る
顔も知らないのに
たとえるならば
今、この時に
生きているという実感
ありがとうと言える言葉たちの
ありがたみが分かる様になった
たとえてみても分からないことばかりだけど
たとえるならば
恋をしているのかもしれない