メッセージ
小川 葉

三年前、秋田に帰ることを決めた日にも、父は空に現れた。
辰年生まれの、亡くなったはずの父が、夏の空に浮かぶ、龍の形をした雲になって。
それから三年後の今日も、父は空に現れた。
一度だけ、雷の音が鳴り、細い雨が、一瞬、降った。
「おめでとう」を、伝えたつもりなのだろう。父の体はもうないけれど、亡くなってからも父は、そうして自然現象を巧みに使い、私にメッセージを送ってくれる時がある。
見上げると青空。しかし、海の方には、今にも消えそうな積乱雲が、霞んで見える。
神様にゆるされて、あの世で、息子に「おめでとう」の一言を伝えたくて、あの小さな雷雲をつくることを、ゆるされたんだな。
ほんとうに、一度だけ、雷は鳴った。辰年生まれの父が鳴らした、雷を、息子も一度だけ聞いた。
届いた。
ありがとう、父さん。
道は、開けたよ。
細い雨が、体に触れる。
私の体を、父が撫でる。


自由詩 メッセージ Copyright 小川 葉 2014-07-14 23:27:50
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