蚊の悩み
イナエ


            祖父は腕に蚊が止まると
            自分の血を暫く吸わせ
            ふっと息を吹き掛けて逃がす人だった

人と付き合うことは結構難しい
 
一瞬の隙を突いて血を頂く
ほんの一滴 
いや 
一滴は多すぎて 掌が迫っても腹が重くて逃げられない
蚊の涙ほどでいい

抗凝血作用のある物質を唾液と一緒に注入すると
皮膚が赤く膨れて 
それが人に嫌われるようだが
痩せるホルモンかアルカロイドを見付けて
少々の血と交換するという方法ならばうまくいくかな

蚊は
卵の時から親を離れ自分で育つ
虫の世界はそれが常識
 (人間のように何時までも子離れしない
  子負虫という気味の悪い昆虫もいるにはいるが)
子離れが早すぎて 情報の伝承累積ができない
それに
人の血を糧にするのは雌だけ
子孫繁栄に関わる重要な話題だというのに
雄どもときたら天敵のトンボがどうの
ツバメがこうのと問題を逸らして話が進まない

猫はうまくやっているな
人を飼い慣らして 
ねぐらを確保し 食糧を提供させ
その上あちこちの家を巡って 
美味しいおやつを調達している

猫のように甘えて 人を利用すれば
地球の滅亡間際まで 一族繁栄できるだろうか

しかし 人間は気まぐれ 
興味がなくなればあっさり寝返る
ばかりでなく 追い出す 殺す

天敵に同情する気はないが
古くから人に愛され 
人家に巣を作っていたツバメ
今では鳴き声がうるさいとか 
糞を垂れ流して汚いとか  
嫌われて 閉め出されたようだ

蚊が人間に嫌われる原因を作ったのは先祖
ウイルスなんぞを注入したからだ
それを知られて血をくれる人が無くなった
ばかりか
見つかると追いかけられ たたきつぶされる
近頃は 嫌な臭いや有毒ガスなど
雌ばかりか雄まで攻撃される
トンボやツバメが減っても
繁栄どころかこれでは 絶滅してしまう
日本脳炎ウイルスを運んだ
コガタアカイエカなどは殆ど見かけないものな
我々一族に絶滅の危機が訪れても
蚤や虱と同様 保護してくれそうにはないなあ

何か良い方法はないかなあ



自由詩 蚊の悩み Copyright イナエ 2014-07-14 15:18:03
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