誠実と暴挙の交差点
クナリ

あの不安定だったひととき
この人のためなら
自分が持っているすべてを
投げ打っても構わないと思った

自分はこの一時、血迷っているだけなんだろうな、とは気付いていた
一晩も経てば、正気に戻ってしまうだろう、とも悟っていた
だから今捨て身にならなければ手遅れになる、と
ひどく冷静な自分の影が
背中からささやいていた

正気に戻るのが怖くて怖くて
狂乱のまま大急ぎで
戻れないところまで駆け抜けようとした
でも
それにすら
失敗した

一晩はすぐに過ぎたね
もうすぐ十年経つね
思いがけず、私は今もまだ、血迷ったままでいるんだね

あなたのために暴挙に走れなかったことは
誠実だったのだろうか
逃避だったのだろうか

後悔はしているよ
でもそれは
私が今も私でいるからこそでもあるよね

電話に出てくれて、ありがとうね
すごく勇気を出したんだよ
十年分もの
十年分もの。



自由詩 誠実と暴挙の交差点 Copyright クナリ 2014-07-12 10:49:48
notebook Home