寒い夏の情景
イナエ

月光に色彩を失った体温がナイフを研ぐ
知恵は分裂と融合を繰り返し
情欲に肥大した心が沸騰している
突出した眼が揺れて
生じた眉間の隙間にナイフが潜り込み
矛盾にゆれる知性を切り裂いていく

脳の襞に踞る夜の嬌態が抉り出されて
夏の庭に跳ねる白い光の中に拡散する
湾曲した音は地球を包み
床下の壺に淀む高僧の言葉をくみ出し
庭にばらまく

脳細胞は曲がることもなく
幻想と現実の混濁する大気を直進して
拡大する秘図を宙に映し出す

神々は人間に伝搬した己の行為に赤面し
欲情を膨張させる人間に
干渉するすべを捨てた

のではなくて 
人間の物欲に小突き回され
使い古され粉々になって
珠や紙に閉じこめられて玩具になったか
それとも 
人間の生きる早さに取り残されて
中世を彷徨いているのか

立脚した幻想におぼれるむき出しの感性は
張り巡らした蜘蛛の糸に触れる者を破壊し
近寄る他人を焼き尽くす
脳に潜む神々に幽閉されていた好奇心が
結界を破り 氷柱の穂先を濡らし
光に満ちた庭を這い回って 
花に誘惑された風のとげと同化する

水に溶けた食欲が
植物の胎内を駆けめぐり
従順な獣の根茎を貪り飽食する

壁にはめ込まれたカタツムリの目を
一つひとつ繋ぎ合わせて
網を織る指に
増幅した欲望が張り付き
天上を刺し貫くとき
見開いた眼は
夏に潜む冬の風に乾燥していくのだ
 


自由詩 寒い夏の情景 Copyright イナエ 2014-07-12 10:28:03
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