想い出 / ゴム鞠毬は暗がりを跳ねて落ちて
beebee
あれは5月の終わり
小学生のぼくは
一人で仲間から離れ
体育館の横の鉄棒の側の
紅いダリアに見入っていた
転がり落ちるゴム鞠毬は
階段を跳ね
壁にぶつかり
非常階段を跳ね
壁にぶつかり
螺旋階段を下へ下へ
降りて行く
ゴム鞠毬のように
想い出は繰り返し
繰り返し途切れ
繋がって行く光り
紅いダリアの花の上には
黄緑色のバッタが止まり
僕を見上げていた
黄色い花粉に塗れ
花芯に顔を埋めていた
誰が落としたのか
その時ゴム鞠毬が
非常階段を跳ねながら
僕の目の前に落ちてきた
見上げる屋上には
初夏の陽射しが
輝いていて
壁に当たるボールの強い音
床を踏む力強い足音がした
体育館から歓声がする
どよめく生徒の歓声は
時間に溶けて
蜂蜜色の光りが溢れて
放課後の埃っぽい匂い
汗をかいたゴム履きが
床に擦れて
白いチョークの痕を遺した
転がり落ちるゴム鞠毬は
階段を跳ね
壁にぶつかり
非常階段を跳ね
壁にぶつかり
螺旋階段を下へ下へ
降りて行く
ゴム鞠毬のよう
想い出は繰り返し
繰り返し途切れ
繋がって行く光り
教室の窓に映る
生徒達の影は
お互いに手と手を合わせて
校舎の陰に想い出を結び付けた