いきれ
イシダユーリ

きみは
いつ
死んだっていい
わたしは
いつでも
きみが死んだことを
悲しんだり
怒ったり
理由や原因を
あれこれ考えたり
自分や誰かを責めたり
する準備を
ずっとしているから

きみは
いつ
死んだっていい
まえとうしろを
すべて
忘れる一瞬を
持っていい

わたしの
となりにいる
わたしが
生きている
ということを
一年のうち
ほとんどは
忘れている
わたしの
となりにいる
わたしが
音楽に合わせて
糸で動かされている
一年のうち
わたしのとなりのわたしは
ほとんど
台本を読んでいる
「男の人のおちんちんを
 切り落として
 空や海や土に
 かえすという祭りです」
右端に立って右手を挙げる

一年のうち
数日だけ
思い出す
わたしのとなりのわたしは
生きているきみである
おなかをつきだしたあと
ひっこめて
口をあける
手で顔に触れて
軽くとびあがる

きみはいつ死んでもいい
生まれたくなかったと言っていい
わたしは五百年前毛皮を着て草地に立っていた
毛皮についていた肉のことを知らないと
まばたきをした
ここは 今でも
まるく 直線
きみは あの 平行
けれど
わたしは 今
季節のとば口に
ひっかかった
ひとの皮に
ついていた肉のことを
知っている
きみに それを はやく
教えたくて
わたしは
どきどき
している
わたしの
呼吸は荒く
頬は
紅潮している
はやく



自由詩 いきれ Copyright イシダユーリ 2014-07-10 10:58:38
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