歌いたいうた
はしごだか

世の中うたが多すぎて
とても選ぶことなんてできない
本当に歌いたいうたたったひとつ

世の中うたが多すぎて
いつか忘れてしまった
本当に歌いたいうたたったひとつ


むかしむかし、だいぶむかし
もともとうたはたったのひとつ
ひとつだったのに、細分化し
とりどりのいろで世界をみたす

みんなが歌うそれぞれのうた
大きなうずにとけこんで
虹のガラスの砕けちった砂
万華鏡につめこんで
回っている
星のコイル
数百マイルを飲み込んで
乳白色に光る水滴の裏
それのどこかにぼくがいる
それのどこかにぼくがいる

朝もやに立つ街路樹の下
敷かれた石をどかして
原始の地層へ伸びて行くツタ
もつれ合っては繁茂して
無限につながる
繊細なつる
わずかな水をからみつけて
ふるえる弦の銀色のわた
それのどこかにぼくがいる
それのどこかにぼくがいる

だから見つけて
どうか探して
加速する粒子の上で孤独でいる
いつまでもぼくのぼくがいる


世の中うたが多すぎて
ポケットにしまいきれない
部屋に積み上げた空っぽの箱

世の中うたが多すぎて
とてもうたいきれない
あえいでいるだけのもどかしいアゴ

最後の電池が切れたあと
やっと戻れた暗闇のもと
聴くモデレートなスタッカート
たったひとつのうたと音

どんなに耳をふさごうと
からだの中からこんこんと
湧き出すハートが弾くコード
たったひとつのうたと音

ミトコンドリアの法のもと
混沌をじる共通温度
壊そうとしても壊れないもの
最高硬度のダイヤモンド
磨こうもっと
それがきっと
たったひとつのうたと音

いのちのみなもとうたと音


自由詩 歌いたいうた Copyright はしごだか 2014-07-09 12:35:30
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