ゆりの花、いちじくの実
犬大好き
庭にゆりの花を植えると病人が絶えない
そう教えてくれたのはあなただった。
家長がほいほい死んでしまうから、とも言ってた。
そして笑いながら、赤黒い球根を掘り返した。
秘密を知られている
そう思われるフシがたびたびあった。
あなたがたまに笑うとき、ご飯をつくるとき、
洗濯物をたたみながらためいきをつくとき、
ずいぶん昔にパージした果実が、
地面にぽたと落ちてから、どんなふうについばまれて、腐敗していったのか
あなたの植物でいっぱいの、やけに湿度の高いこの部屋で、
わたしはだまって解剖されていく。
秘密を知られている
そう思われるフシがたびたびあった。
あなたはゆりの花みたいに深く、がっくりと首を折り曲げて、
またひとつ重いためいきをつく。
わたしたちは帰らないひとのことなんてさっさとあきらめて、
いっそグーで殴り合えばよかったのだ。
ふたりがこんな風にだまりこんで、
なにも言い出せなくなる前に。
秘密を知られている
そう思われるフシがたびたびあった。
あなたの植物でいっぱいのこの部屋に、夜はとろとろ横たわり
窓のそとには雨粒が落ちはじめた。
庭のかたすみにひっそりと咲く
ゆりの花にも落ちはじめた。