大魔術帝国
DAICHI

絨毯は毛を食べる。受け止め、取り込み、嚥下して、同化する。
それは、吸引力が変わらない奴だろうが、円筒形のころころ転がす奴だろうが、発達した猿の末端器官だろうが、まるで届かない身体の奥底に溜め込まれ、日夜、魔術の触媒にされている。

髪の毛、腕の毛、脛の毛、背中の毛、陰部の毛。貴方の毛、私の毛、彼の毛、彼女の毛、母の毛、誰だか知らない毛。猫の毛、犬の毛、猿の毛、鸚哥の毛、貉の毛。絨毯の奥底で噛み砕かれ、混ぜ合わされ、消化され、同化され、やがて互いを憎みだす。

いくつもの命だったもの。命でありながら切り捨てられたもの。命でいられなかったもの。命でいさせてもらえなかったもの。それらは絨毯の胃袋で、ただの命となって、争いあい、いがみ合い、分かち合い、分かり合い、時を越え、功夫を積み、知性を得て、文化を築き、練り上げ、発展し、絨毯の向こうで共有し、統合され、かつて欠片だった命たちは、まるで一つの命と成り直し、三千繊維の向こう側で、大帝国を成している。

そして待つ。
待っている。

君を呪い、恋人たちを別れさせ、草木を芽吹かせ、小2児童を攫わせて、一目惚れと行きずりの恋を演出し、それを映して笑い合い、物理法則を必要としない方法で版図を広げ、響きあう呪詛に磨きをかけて、親友をビルの先から飛び降りさせて、株価を操作し、プラズマを見せ、緻密な実験に些細な差異を差し挟み、風を起こし、疫病を生み、いじめられっこに拳銃を渡し、血の数滴で、また新しい魔術を作り、

今や一つの世界を成した、彼らの手番が来る時を。


自由詩 大魔術帝国 Copyright DAICHI 2014-07-08 18:28:33
notebook Home