おばちゃんごめんねとぼくは言った
オイタル

お線香をひとつつまんで
おばちゃん ごめんねと
ぼくはいった
ごめんね

あら いたるちゃん よくきたね
おまえはしんでからだと
よくおいでになるね
いきているうちは 何か不都合でもあったかい

おばちゃん
しんで口がわるくなったんじゃないの
せっかくのきれいなお化粧が
憎まれ口でだいなしだ

おまえはたいそう 口がまわる
そんなに口がまわったっけか

死んでしまうと
あなというあながあくからね
口も鼻も耳も 人にいえないとこも
目だけつむられて
黒い黒いうろのなかを這いずって
人じゃない どんなところへ後ずさっていくのか

ばかなこといってる いたるちゃん
いいから座ってお茶でもお飲み
あいにくと
藍の模様の欠けた茶わんの 冷たいのしかないけど

祭壇の高いところの
白い障子が小さく明るく光ってて
障子の向こうに 小さなおばちゃんの影が
うちわで ゆかたの 細い襟のあたりを
ゆっくりとあおいでおりました

とさ

ごめんね おばちゃん


自由詩 おばちゃんごめんねとぼくは言った Copyright オイタル 2014-07-05 23:20:28
notebook Home