海に沈む
永乃ゆち





『いつの日か魚になってあの人に食べられることそれが夢です』



海草が足に絡まり動けない傷付け合った二人の代償

唇は奪うものだと知った時魚の情事を悲しく思う

つま先が腐ってゆくの愛憎を換算したら魚になるの

どこまでも潜っていくの私たち激しく憎み激しく愛した

まつ毛まで塗らしてしまう高波の激しさで私を求めてみせて

真緑の海に浮かんでこの足をあなたに開く予習をしてる

私たちのセックスはまるで幼子の泳ぎの練習そのものだった

真っ白いシーツを汚す権限をポセイドンには与えてもいい

絡まった腕と足と重なった腰と唇 溺れてしまう

体液が私の中に入る時水をたたえた惑星になる

あの人との最後の情事のあと海がゆっくり部屋を満たしていった

羊水の中で眠った記憶ごと預かりあなたの永遠になる

海鳴りが二人を引き裂くものとして千切れた小指は折り重なって



『花束を抱えているのが目印です私をどうぞ釣ってください』




短歌 海に沈む Copyright 永乃ゆち 2014-07-05 04:43:56
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