夏らしき日よ
ただのみきや
風はその指先
山の緑を掻き分け
光の欠片のよう
白蛾の群れ舞い散って
橋から覗き込む
水音は涼しげに響き
燕が足下をくぐり抜ける
遠く切り取られた海が
傾いだ陽射しを溶かして
かもめの夢
豆粒ほどの船を浮かべる
街並みもここからは
小さなコンクリート凹凸に過ぎない
逃げ出すことは叶わなくても
この緑深き高みから
遠く小さく見下ろしてやろう
埋め尽くす苦い砂の毎日より
今この瞬間こそ己であり現実と
身投げほども乗り出し
胸いっぱい季節を吸いこんで
スズメバチかすめ
空気がピリッとしたその後に
ふわり 白独り
顏前でしばし戯れて
≪いのちを謳歌せよ ≫
気温の変化で生き死にし
こんな風にも抗えず それでも
羽ばたいて 羽ばたいて
感じるままいのち
悩み続けるいのち
風と時を分け合いながら
すれ違う夏らしき日よ
《夏らしき日よ:2014年6月29日》