こひもともひこさん「民主主義」にカウンターパンチ食らう。
アラガイs


…朝の選挙速報を眺めていると僕はとうとういたたまれなくなってしまった。
彼女は何故か気のない返事で僕をはぐらかす。公示が決まったその日からお店にも顔を出してはいないようだ。(応援は知り合いから頼まれて断れなかったのよ)と、僕には言った。
以前のようにゆっくり話せなくなってから2ヶ月が経とうとしている。その日の夕方僕は彼女を呼び出し問い詰めることにした。真剣なのだ。真剣過ぎるから僕は本心から応えを求めてしまうのだ…。

まだ前日の雨に濡れている歩道。ウィンドウの奥から覗く速報番組の顔が忙しなく切り変わる。それを見ることもなく人々は家路を急いでいる。石畳に置かれたテラスは空いてた。彩りで飾られた憧れのブルボン様式のテーブル。珈琲を注目した直後に彼女はやって来た。今日もあのお尻のラインが滑るように食い込んだ漆黒のスーツだ。(素敵なテーブルね…)見渡しもせずに口調はそっけなかった。

予感に怯えるとき、携帯は邪魔なツールにもなる。雰囲気を察知したのか、何も尋ねないうちから彼女は切り出してきた。
( ごめんね、明日からまた逢えるようになるわ )
僕はその一言を待っていたのだろうか。首筋から流れる電圧が背中の太い骨を貫いた。同時に水を得た魚のように深い呼吸に安堵した。
( もうすぐ結果が出るね、彼はまだ本部に来てはいないんだろう? 昨日は?) 女の表情には疲労感が漂っていた。見つめていると電流が腰から抜けていくのがわかる。僕は爽快な声でウェイターを呼んだ。
(明日から、また仕事探さなきゃ… )
近くの店舗に置かれたテレビから拍手が聴こえてきた。頻りにレポーターが無所属で当選した議員に与党入りの可能性を質問している。メールをしていた彼女の指先が突然離れた。放電が火花を散らしはじめ僕の首筋からこめかみにかけて血をはしらせる。冷たい塊が思いもしない雹を降らせ、女はため息を鼻で吐き出すとスマホをテーブルに叩きつけた。(わたし、すぐに帰るから…)
それにしてもドラミちゃんのストラップは似合わないだろ?
この数日間僕は自分の力の無さを思い知らされたよ。
街を覆う雲はいつの間にか東の方角へ去って行った 。





※勿論お題はちんすこうりな さんから頂きました。
※訂正とお詫び……散文欄に書いてしまいました。勿論散文ではありません。めんどうなのでこのままに捨て置きます。


散文(批評随筆小説等) こひもともひこさん「民主主義」にカウンターパンチ食らう。 Copyright アラガイs 2014-07-03 13:27:25
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