胎児の記憶
chiharu

わたしがまだ、
母のお腹の中にいたときの記憶。

狭いアパートの四畳半。
低い天井。
薄暗い曇りガラス。
脚が四本ついた白黒のテレビ。
テレビの横に置かれた背の低い茶箪笥。
まあるいちゃぶ台。
ちゃぶ台の上に一升瓶。
お酒の匂い。
酒盛りのあと。

ランニングとステテコの父。
髪をひっつめた着物の母。

産院でわたしは生まれた。
父は母とわたしを
迎えに来なかった。
待っても待っても
父は迎えに来なかった。
父は男の子が欲しかった。

まだ、生まれたばかりで
目の見えないわたしの
初めて見た風景がそこにあった。



自由詩 胎児の記憶 Copyright chiharu 2014-06-28 16:46:25
notebook Home 戻る