追憶のマーメイド
ゴースト(無月野青馬)

その日
マーマンはただ眺め続けることしか出来なかった
マーメイドが泡になりながら天へ昇っていく光景をただ眺めていることしか出来なかったのだ
その日も
マーマンは
マーメイドは
空が広がっているのに寂しいと思っていた
何処まで行っても砂漠だと思っていた
それは
マーメイドはマーマンに
マーマンはマーメイドに
限界を感じていたからだろう
いくら水を呑んでも渇きが癒えない喉のように
渇いていたからだろう
それは膜があるからだ
それは膜の所為だ
2人は気付いていた
ならば
マーメイドとマーマンで
マーマンがマーメイドの
マーメイドがマーマンの
膜を破ればいい
膜を破ればいい
膜を破って
ぐちゃぐちゃに破って
そして
その奥の光る珠を見付けて
見詰めて
撫でてみればいい
撫でてみればいい
撫でてみれば
限界も無知も
退廃も劇も
消えて
ちゃんと(やがて)
妙齢になれるから
二人して妙齢になれるから
そんなに相手を呪わなくていいから
飽きなくて済むから
脱がすんだよ
膜を破るんだよ
先達は皆
そうしてきたんだから
そうしてきたんだからと
マーマンは言って
けれども
その日
マーマンはただ眺め続けることしか出来なかった
マーメイドが独りきりで泡になり
天へ昇っていく光景を
ただただ眺めていることしか出来なかったのだ





自由詩 追憶のマーメイド Copyright ゴースト(無月野青馬) 2014-06-28 15:23:55
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