濡れることも出来ない夏なんて
ホロウ・シカエルボク
閉じかけた目をもう一度開いて
あなたの世界にあるものをもう一度見つめて
彼らはあまり音をたてないように
あなたがきちんと目覚めるのをずっと待っている
テーブルに置き去られた飲みかけの紅茶と
その脇に閉じられた読みかけの本
栞が挟まれたページは
もう何年も変わることがないまま
あなた自身を離れることでどんな孤独を手に入れたの
あなた自身から目を逸らすことで
確信を偽っても真実はついてくることはない
あなたの開かれた目がちゃんとたどりついたものでなければ
窓の外は雨だけれど、目指すべき光が必ずあるから
濡れることなど気にしないで外に出て行きましょう
風邪をひくかもしれないけれどいっときのことだから
そんな痛みも知らなければ尊さを知ることは出来ないから
時刻は午前零時、何もかもが新しく塗り替えられる
一日でたった一度だけの刺激的なチャンス
こんな時間に目を閉じているなんて絶対に許されない
未来が産声を上げる刺激的な時間なのに
痩せこけた野良犬がびっこを引きながら食べるものを探している
あの子はきっとすぐ先にあるごみ捨て場の
食べかけの捨てられたハンバーガーを食べて
悪いものにあたって短い命を手放す
街灯が雨に曇って真夜中の雲みたいに浮かんでいる
あの光の下をゆっくりと歩きましょう、ぬくもりを求める虫のように
凍える必要なんて何もないのに、こんな夏の夜に
馬鹿みたいに歯の根を鳴らしながら
街外れの空地の捨てられたタクシーの中で
くっついて眠りながら朝が来るのを待てばいい
フロントガラスに落ちる雨粒を見ながら
いつか夢中で読んだ小説みたいにボブディランをハミングする
今夜の表通りには不思議なくらい人も車も通っていなくて
私たちはまるで最後の人類のように歩く
街外れのおんぼろのシェルターを目指して
夏の夜に凍えながら馬鹿みたいに歩いている、それはきっと幸せなこと
そう、濡れることも出来ない夏なんて、きっと。