熱風の街
Lucy
強過ぎる日ざしが
真上から
直接脳に突き刺さる
そよ風が
熱風に変わり
日傘を裏返しにしようと
襲ってくる
バッグからハンカチを取り出して
涙をぬぐう
何度立ち止まって
ハンカチをしまっては
また取り出したか
わからない
汗を拭っているようにしか
見えないだろう
自分の涙を
私は信じてなんかいない
さっき見舞った介護施設の
廊下に流れていたオルゴール曲
斎場でよく流されるような
癒し系
トイレに入ったらよく聞えた
おそらく
そのせいだ
返事をしなくなり
口を大きく
目を薄く
開けたままの父に
話しかけてみたら
こみ上げた涙
口に出せば
泣くしかないに決まってる
病室に誰もいないのを見計らい
きっと父が亡くなったあとで
生きているうちに
言えばよかったと後悔するであろう言葉を
言ってみた
ただ自分のために
父がおそらく聞いていないのをいいことに
鼻をかんで
ハンカチで涙を拭って父を見たら
目を見開いて私を見ていた
皮肉屋だった父
普通はそんな事
言いたくたって
生きているうちには言えないのだ
自分で泣きたかったんじゃないか
感傷に浸りたかったのだろう
本当に辛い場面では
人はただ無言で
つくり笑顔でいるものだ
闇雲に熱風の中を歩くしかなかった
だれと心をつないでいこう
大切な人が
一人ずつ
確実に風に消えていく
この街で