喪失ー友へー
イナエ


滞ることなく継続していく時間
の中に縒り込まれ生命
いつかは剥がされ
抜け落ちるとしても 
まだ先のはずであった

だが 
左足小指の
先に出来た米粒ほどの腫瘍は
細胞を溶かして
爪を剥がし
足首に広がって
六十年を生きた生命を
揺らし始めた

生命の終焉か 
左下肢切断か
の二者択一
選択の余地などあろうはずなく
切り捨てられる左下肢

 生命は
 モニターに繋がれて
ベッドに横たわり
 戻ることも
 進むこともできず
 揺らいでいたが
 時間は
 星の描く軌道上を
 規定通り動きながら
 生命から剥がれて
 宇宙に落ちていく左下肢を
 見送っていた



自由詩 喪失ー友へー Copyright イナエ 2014-06-26 17:10:08
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