人へ
葉leaf

〈組織を流れていく明かり〉
ドアを開くとどこも同じ風景。
だが新しいドアであるのは間違いなく同じ風景でも全く違った内側の構造を宿している。
人の動きはどこも同じ。
だが同じ動きでも全く違った言葉と速度が飛び交っている。
呼びかけるドアと応えるドアの間に違った起伏を滑らかに流れる明かりがある

〈役割と責任〉
これは役割ではありません。
責任も伴いません。
確かに私がやらなければならないことですが。
役割よりもっと個人的なもの責任よりもっと事実的なものです。
社会が私に割り当ててくるものは社会の次元で語られてはいけない。
私が呼吸し摂取し代謝するものとしてもっと生命や自然に近いもの

〈個人の外の集団〉
個人に秘密なんて何一つない。
集団の仮構された頭脳の中に形成される意志や感情こそが秘密である。
僕は集団で共有される秘密の一歩手前でいつも拒まれる。
集団の秘密は個人を連携しながら機に応じて大きく揺らいでいく。
僕はその動きに乗りきれず囲まれた秘密の外壁の模様を見るだけ

〈晴れた日の晴れやかな憂鬱に〉
僕の手は遠くに切り離された。
もちろん僕の脚なんてどこかに隠されてしまった。
最も近い所に次々と大きな隔たりが注入されていきその隔たりの無意味さに感動した。
自分が無意味なのは言うまでもないが自分を疎外していく隔たりの方がもっと無意味で香ばしく瑞々しい。

〈重くすれ違った君へ〉
お互い幸せを求めていたのに互いの中には不幸しかなかった。
お互い愛を求めていたのに互いの中には与える愛がなかった。
お互い対話を求めていたのに求めすぎていて語り尽くせないことばかり目についた。
僕も君もやがて互いの中で花咲くことをやめて、消化できない硬い種になった

〈研修の日々の濃度から離れて〉
急速に出会い急速に別れていった僕ら。
人間という強い酒を何杯もあおりながらしたたか酔っては二日酔いしか残さなかったよね。
人間の色彩が、結び目が、光と影が、柔らかさが、かたちが、難しく交差しては激しく散って行った。
十年後にはお互い忘れて記憶の落書きになる


自由詩 人へ Copyright 葉leaf 2014-06-26 06:39:56
notebook Home