ボクの中を谷川が流れていた頃
イナエ
血管を流れる血のように
岩を滑る垂水が
ぼくの中に流れていたころ
ときどき 桃が流れ着く岸辺で
老女が野菜を洗い米をとぎ
男の子が笹船に乗って
都の方へ出かけて行った
川の畔の小さな広場には
月の夜山の獣たちが集まって踊り
時々かっぱが覗きに来るのだった
中州の岩の上に建つ小さな城には
色白の少女が住んでいるらしい
山腹の老爺の畑の芋や南瓜を
猿や狸がねだるころ
人間の子どもたちは魚になって
淵に潜りピンクの亀と遊んだ
星も雲も 夜空に填った月も
むっつりした山も明るかった